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Synergy:

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SYNERGYALL
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   概要  ウンチク  その他
Synergy はこんな音

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  ウンチク :

●Synergy の特長は GDS で作られた倍音加算方式によるサウンドを再生できることである。GDS は音響研究のような目的には向いていたが,ライブで使用したりミュージシャンが手軽に使えるようなシステムではなかった。

 Synergy は,この GDS の音を 24 個プリセットとして持ち,外部カートリッジによりさらに 24 個の音色が追加できるように設計されている。カートリッジ/プリセットのデータは Synergy の各オシレターがどのような音をどのように発音するのかのデータを ROM として保持しており,自分で音を作ることはできなかった。したがって, GDS で作った音を Synergy で再生するためには ROM バーナーを使ってカートリッジを作ってもらう必要がある。

 後期に発売された Synergy II+ では RS-232/Midi 端子を装備し,外部コンピュータを接続することによる音作りができるよう改良され,この問題は解決された。ただしつながるコンピューターは Kaypro というマイナー機種だった。



●GDS/Synergy では倍音加算方式による音作りを行っている。倍音加算は音の構成要素である倍音を積み上げ,それらを時間と共に変化させることによって音を作る。

 GDS/Synergy の各オシレターもまた時間とともにピッチや音量を変化させられるように設計されている(GDS では各オシレターごとにピッチ・エンベロープや音量エンベロープをコントロールして音を作っていく)。

 Synergy は鍵盤を演奏する強さ(ベロシティー)で音色(ティンバー)を変化させられるが,これはアナログ式のフィルターによるものではなく,それぞれのオシレターの発振するサイン波の量をコントロールして音色変化を作り出しているわけだ。

●製品仕様にも書かれているように Synergy は 32 個のデジタル・オシレターをもっている。これらのオシレターの 1 つ 1 つは単純なサイン波か少しだけ固い音のする三角波の 2 種類の波形しか発振しない。GDS/Synergy II+ での音作りはこのサイン波(または三角波)を発振するオシレターをいくつか組み合わせ,複雑な波形の音色を作り出していくことによって行う。

 したがって,作った音が 2 つのオシレターを使用するなら,鍵盤で演奏できる音の数は 16 音となる(32/2=16)。マルチ・ボイス・モードのユニゾンで 4 つのボイスをセレクトし,それぞれのボイスが 2 つのオシレターを利用して音を作っていたとすると,鍵盤で一度に押さえることのできる音の数は 4 つまでとなる(32/2/4=4)。


●我々が聞くことのできる音は1024 倍音以上まで倍音を含んでいるが, Synergy の時代の技術力ではリアルタイムに処理できるデータ量に限界があったため,このような仕様になったと思われる(当時発売されていたフェアライト・シリーズ 1 でも倍音加算方式での音作りは 1 ~ 32 倍音までを使用して行っていた,ただし Synergy とは発振方式が全く異なる)。


●『倍音加算による楽音合成』は,古くから理論的には解明されていたが,実用的な文献は1979年9月に”An Inexpensive Digital Sound Synthesizer”と題してベル研究所(ベル・ラボ)のハル・アレス博士により”コンピューター・ミュージック・ジャーナル”に発表されている。この本はマサチューセッツ工科大学の出版部により発行されるコンピューター音楽の論文や情報を集めた機関誌である。

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 しかしベル・ラボは非営利団体であったため,その理論を応用して楽器として完成/販売するため,同博士はイタリアのキーボード・メーカー” CRUMAR ”の関連会社である Music Technology Inc.(正確にはその中の1部門である Digital Keyboard Inc.)にアドバイザーという形で加わり Synergy を完成させていった。

 ベル・ラボ/MIT(マサチューセッツ工科大学)ということもあり, Synergy は音楽雑誌より科学雑誌で取り上げられることの多い楽器だった。1982 年 4 月の米 Omni 誌では”シリコン・オーケストラ”とい
うタイトルで Synergy を紹介している(記事の内容そのものは稚拙なものであるが)。


●Synergy の音作りには初期の段階から(GDS の頃から)ウェンディー・カルロスが関与していた(ただし初期段階では性転換手術の前だった可能性もあり,もしかすると名前がウォルター・カルロスだったかもしれない)。倍音加算方式の音作りは理論的にはどんな音でも作り出すことが可能なはずであり,発表当時は非常に関心が集まった(ただし技術系の人から)。しかし今聞いてみると,その音は期待ほど凄くはない。その証拠に Synergy は同時期に発売されたヤマハの DX-7 に,完全に話題をさらわれてしまったのである。

●Synergy のファクトリー供給カートリッジにはいくつかの種類がある。私の持っているのはウェンディー・カルロス制作のもの 4 本で,ドラムの音なども入っているが,今ならハウス系のネタとして結構重宝しそうだ(裏を返せば発売当時にはこの音じゃ相手にされなかっただろうということ)。ウェンディー・カルロスは,この楽器をいたく気に入っていたようで彼女のアルバムでは GDS/Synergy のみで制作されているものもある。日本ではディズニーが制作した初の CG 中心の映画『トロン』のサントラが GDS/Synergy 使用のアルバムとして有名だが,他に『ビューティー・イン・ザ・ビースト』,『デジタル・ムーンスケイプス』等があるがいずれも国内盤は出ていない。


    


●他に GDS/Synergy を使用しているアーティストとしてはクリス・フランケ(サントラ『シーフ』),EW&F のラリー・ダン(スタンリー・タレンタインのアルバムで使用)やブロンディ(ツアーで使用)等がいる。さらに Synergy という名前で活動を続けているラリー・ファーストは『ゲームス』というアルバムで開発中の Synergy 等を利用しており(ラリー・ファーストは Synergy の商標権で DKI ともめたようだが),このアルバムのクレジットにはベル・ラボ/ハル・アレスの名前も記載されている。


●日本では大阪にあるフォー・ライフという楽器店が輸入・販売を行った。当時の定価は 250 万円。同機は Synergy II+ になって Kaypro というハンディーなコンピューターを使った音作りが可能となったが,このコンピューター自体がマイナーだったこともあり,ほとんど日の目を見ないままに人々に忘れられていった。 Synergy はその後,別会社に移ったスタッフ達により Slave-32 という名称のラック版としても販売されたが,ほとんど売れなかったようである(それでも一部はヨーロッパ市場に出回っていた)。現在は DKI にいた技術者ストーニー・ストッケル氏(米 KORG に在籍)が個人的に Synergy 用のソフトを購入者に配布している。

●----- 発売当時の某雑誌の紹介記事 -----

 今のシンセを 10 年進歩させたものだといわれるデジタル・キーボード”シナジー”。~略~ 24 ボイスで音作りは無限,しかもフロッピーディスクにメモリーが可能。 ~略~ ちょうど,イーミュレーターとシンクラビアー II を足して 2 で割ったようなキーボードだ。

注)フロッピーディスクに~ ← ウソ(フロッピーディスクはついてない)
  足して 2 で割ったような~ ← 謎!(イミュレーターはサンプラー,シンクラビアーは FM 音源)



●この楽器は 73 鍵のキーボードがついてるだけあって,当時のシンセとしては相当デカくて重い部類に入る。電源を入れるとハードディスクでも回ってんのか!というくらいファンの音がうるさい。ファクトリー・プリセットは変更できないなら番号じゃなく音の名前表示するか,せめてマニュアルにはサウンドの名前くらい書いてほしいものである。

 コントロールパネルは液晶表示ではなく,全て LED で表示している。しかし,そのわりにパラメーターが多いため,ステータス表示は LED が 1:消えている,2:点灯している,3:ゆっくり点滅している,4:早く点滅している,という 4 つの状態で表示するためわかりにくい。当時他社のメーカーのシンセは既に液晶表示を行っていたのを考えると,ちょっと...という感じである。



●フロート・スプリット機能は,左手で演奏しているコードの音色と,右手のメロディーの音色が交差してもメロディー部分をコンピューターが判断して正しい音色が出るという,画期的なアイディアである。しかし,実際に演奏してみるとうまくいくときと,いかないときがある。また,選んだ2つの音色のどちらのボイスが左手にくるのかが,場合によって変わってしまう。

 マニュアルを見ても他の部分は非常に詳しく書かれているのに,このフロート・スプリットの部分では簡単な譜例と『ヘンデルの曲のパイプオルガンやハープシコードのような演奏ができる』といったことしか書かれていない。きっと,作ってみたけどうまくいかないので,マニュアルでもごまかして書いたんだろうな。



外部とのインターフェイス

 CV/ゲートのイン/アウト:なし

 MIDI:Synergy-II+ 以降には装備

 旧タイプの MIDI 改造は不可能

 その他:Synergy-II+ 以降には RS-232Cのインターフェイスあり