Analog Synthesizer Lecture

Arp Odyssey vs GMEDIA Oddity

1.概要  2.比較  3.音作り1  4.音作り2

 この原稿は2005年頃に無料紙のデジレコに掲載した原稿に筆訂正しています。


1.概要:

 Arp Odyssey についてはミュージアムを参照して下さい。

 

Odyssey の歴史:


 Odyssey はシンセサイザーメーカーの Arp から1972年に発売されたアナログシンセである。型番は 2800 番台であるため、eBay 等のオークションで探す時にはこの番号でもサーチをかけて見ると良いだろう。Odyssey には3つのリビジョンがある。Rev 1 は72年発売の物で白いパネル(写真1)。Rev 2 は黒パネルに金文字。Rev 3 では黒パネルにオレンジの表示(写真2)となっている。Rev 2~3 は1978年前後に発売になっているが、Rev 2 の販売期間は短かった。結局すぐに Rev 3 に切り替わり、これが Arp 倒産の1981年まで継続販売されていた。一般的に CV/Gate in 端子は Rev 1 にはなく Rev 2 から付いたとされているが、Rev 1 でも後期には端子が付いていた物があった。Arp の説明によるとパネルの色を白から黒に変えた理由はステージで使用している時に白だと照明が反射してパネルが見にくいというミュージシャンからの要望によるという。Rev 2 以降の Odyssey には Arp Little Brother というオシレターの拡張ユニットが販売されており、これを接続する事により VCO の数を増やす事ができた。

 

PANF2 Odyssey20Rev203

     写真1:Odyssey Rev.1         写真2:Odyssey Rev.3


 


 Odyssey は発売時期や価格からよく Minimoog と比較されるが、両者は驚くほどキャラクターが異なっている。音色は Odyssey は鋭くきついのに対して Minimoog は太く重かったが、音の抜けはどちらも良好だった。概して Odyssey は腰のあるベースサウンドや切れの良いサウンドからファンク系、フュージョン系や映画音楽によく使われ、Minimoog はプログレ系や同じファンク系ベースでも地を這うようなサウンドが必要な時に使われる事が多かった。


 細かい音作りはサンプル&ホールドやリングモジュレーター等を装備した Odyssey の方が圧倒的に優れていた(内部のブロックダイアグラムを下図1に示す)が、残念ながら鍵盤の数が3オクターブしかない Odyssey は不利だった。ただしピッチの安定度は Odyssey の方が良く、Minimoog は安定度の面に問題があった。発売から30年以上がたった今でも Minimoog のピッチは安定が悪く、Odyssey のピッチは安定している。


 しかし、Odyssey のスライダーは非常に使いにくい。同じスライダー方式でもローランドの初期シンセは今でも問題なく使えるのに対し、Odyssey のスライダーはガリが出る上に動かすのに力がいるため、簡単に音色が変えられないという問題がある(ガリと言っても音量がガクガクと変わったりという生易しいものではなく、全然音が出なかったり、突如最大音量になったりする)。Odyssey がソフトシンセ化し、このガリ地獄から解放されるというのは嬉しい限りである。Arp もこの問題を把握しており Rev 3 で多少スライダーの使い勝手が良くなったが、それでもかなり厳しい物があった。

 

DIAGLAM

図1

 

  Odyssey Rev 1 のピッチベンダーは Pitch Bend と書かれてはいるが左側にボリュームが付いているだけだった。しかし、Odyssey, Minimoog の発売された1972~3年頃にはまだピッチベンド奏法は一般的ではなかったため問題がなかった。だが、1974年頃からマハビシュヌ・オーケストラでキーボードのヤン・ハマーが Minimoog を使ったベンディング奏法を多用し始め(マハビシュヌ・オーケストラ「火の鳥」),それは1976年発売のジェフ・ベックのアルバム「ワイアード」て決定的な評価を得る事になる。


 ベンディングホイールを装備していなかった Odyssey Rev 1 は不利になり、Rev 2 の発売と同時にベンドボリュームの付いていた位置に「PPC(Proportional Pitch Control)」と呼ばれるピッチコントローラーを取り付けられるようにした。この PPC はベンドボリュームを外して後から取り付ける事も可能だったが、Rev 3 からは標準装備となった。PPC は3つのラバーパッドからなり、左がベンドダウン、中央がビブラート、右がベンドアップのコントローラーになっており、パッドの押し具合でベンド/ビブラートをコントロールできた。しかし PPC 発売時にアメリカのコンテンポラリーキーボード誌(後のアメリカ版キーボードマガジン)の付録として配布されたデモ演奏のソノシートの内容は悲惨な物で、ピッチベンドと言うよりは回転数の狂ったレコードを聴いているようで、船酔いしそうになった。あのソノシートを聞いて PPC 取り付けを決意した勇気ある人がどれほどいたのだろうか?

 

     PPC20Record


 


実は2種類ある Odyssey のバーチャルシンセ

 今回と次回、Odyssey のソフトシンセ版として GMEDIA の Oddity を取り上げるが、実は Odyssey のソフトシンセにはもう1種類ある。ドイツの Creamware(その後 Sonic Core と社名変更して2014年現在も存続している)が発売している Scope 用のProdyssey(まんまな名前だな)だ。これは Scope の DSP ボード上で走るソフトシンセなので正確にはハードも込みという事になるかもしれないが、Odyssey Rev 3 をシミュレートした物で興味深い。実は買おうかと思ったら突然 Creamware が倒産してしまい、日本中の楽器店の在庫を探してもらったが見つからずに断念した。同社はその後、再建し Sonic Core として再び製品販売を行っているが、残念ながら日本では(代理店がないため)買う事ができない。現在、同社の HP でサンプルサウンドを聞く事ができるが、このサウンド、あまり Odyssey の特徴をつかんだサンプルではないので、イマイチ製品の善し悪しが評価できない。



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