Analog Synthesizer Lecture

Arp Odyssey vs GMEDIA Oddity

1.概要  2.比較  3.音作り1  4.音作り2

 この原稿は2005年頃に無料紙のデジレコに掲載した原稿に筆訂正しています。


4.音作り2:
 

・もう一人のフュージョンキーパーソン、チック・コリア:

 同時期にキーボード・プレイヤーとしてジャズ/ロックで有名だったのがチック・コリアだ。ハンコックも彼もトランぺッターである故マイルス・デイビスのグループに在籍していた。マイルス門下生は他にも後の音楽界に大きな影響を与えたミュージシャンがうようよしており、マイルスがいかに先進的な音楽を指向していたかをうかがい知る事ができる。


 そんなコリアだが、チック・コリア&リターン・トゥ・フォエバー名義で1970年初頭にフェンダーのエレピをフィーチャーしたアルバムを2作発表した後、突如ロック的アプローチのインスト・アルバムを発表する。その2作目にあたるのが「銀河の輝映」(下記リンク)だ。1曲目の「ヴァルカン・ワールド」では2種類の Odyssey サウンドを聞く事ができる。1つは頭から43秒に登場する2つの VCO を完全5度にセットしたサウンドだ。ここでは VCF に S/H の電圧を送り、かつ S/H のトリガモードを KYBD TRIG にセットする事で、1音毎にフィルターのかかり具合が変わるようにセットして演奏している。もう一つは鋸歯状波の VCO 1つで演奏するクラリネット系のリードサウンドだ(2分5秒から、また他の場所のリードサウンドにも登場する)。フレーズはモードを中心にした演奏でハンコックの演奏とは全く違い面白い。ここでチックは VCO の FM インプットの LFO サイン波を使って演奏中にビブラートのコントロールをしている。なおメインメロディーに登場する金属系の音はチューブラーベルズとベルツリーの他にヤマハの YC-45D というオルガンを使用しており、特徴あるサウンドを作り出している。


 また、この曲はベーシストのスタンリー・クラークのネンペラー・レーベルでの第一弾アルムに「ヴァルカン・プリンセス」というタイトルで収録されているが、こちらはドラムに故トニー・ウィリアムス、キーボードにヤン・ハマーが参加しておりチックのバージョンとは全く異なるアプローチの粗野で重い感じのロックとして演奏されており、両方を効き比べてみると面白いだろう(っつ〜〜か、ほとんど病気の演奏です!)。

 

        

 

Vcalcan Wrold Bass のサンプルパッチはこちら

Vcalcan Wrold Solo のサンプルパッチはこちら


 チックの Odyssey による同様のサウンドはアルバム「妖精」の5曲目「夜の精」の1分37秒から始まるジョー・ファレルとの壮絶ソロバトルでも聞く事ができる。この曲4拍子なのは間違いないんだが、どこが頭なんだかすぐにわからなくなる。聞いている人を騙すトリッキーなフレーズをバンドで演奏したい人は研究してみる価値がある。

 



 


・映画音楽の隠し味として使われた Odyssey:


 さてそれでは視点を変えて映画音楽の分野での使用例を見てみよう。Arp が発行していた機関誌「アルペジオ」によるとラロ・シフリンと故ジェリー・ゴールドスミスは、かなり早い時期からの Arp ユーザーだったようだ。記事では大型モジュラーの 2500 を使っていると書かれているが Odyssey も使用しているという事である。また Arp の使用者リストを見ているとクインシー・ジョーンズやヘンリー・マンシーニも入っている。ただ残念ながら映画音楽では使用した楽器まで記載されている事は稀である。しかし、断片的な情報から推察すると以下の曲は Odyssey が使われているらしい。

NEWS

Arp の機関誌「アルペジオ」


 


・刑事コロンボのテーマとして有名な NBC ミステリーアワーのテーマ:

 恐らく多くの人が知っていると思われる刑事コロンボのテーマだが、実際には NBC ミステリーアワーという時間帯のトータルなテーマとして放送されていた。そのミステリーアワーの中のひとつが刑事コロンボだったというわけだ。このメロディーを取っているのが Odyssey だと言われている。ここではポルタメントタイムを調整しながら口笛系のサウンドが聞かれる。曲は色々な映画音楽のアルバムに収録されている(下記リンク)。

 

刑事コロンボのメロディー部分のサンプルパッチはこちら


 


・結構シンセマニアだったらしいラロ・シフリンの映画音楽:

 スパイ大作戦やダーティー・ハリー等、60〜70年代のジャズ/ロック系を取り入れた映画音楽の大家として有名なラロ・シフリンだが、アルペジオ誌によると「燃えよドラゴン」のテーマやテレビ版「猿の惑星」のテーマが Odyssey らしい。燃えよドラゴンは有名なメロディーだがテレビ版「猿の惑星」は映画のヒットを受けて製作され、日本でも70年半ばに密かに放映された番組だ。この中でシフリンは番組冒頭部分で S/H を使用した音程が飛ぶ効果音を作っている。曲の内容はシフリンにしては珍しく比較的大きな編成のオーケストラ曲で、続・猿の惑星のレナード・ローゼンマン風の曲を聞く事ができる。なお、TV 猿の惑星のサントラはオープニングタイトルだけが「猿の惑星・征服/最後の猿の惑星」のアルバムにボーナスとして入っているマニアックな物だったが、どういうわけかつい最近、猿の惑星TVシリーズコンプリート DVD ボックスなるウルトラマニアックな商品が登場したので SF マニアは要チェックだ。なんと声優として植木等が参加している!

 

   


 


 というようなわけで色々とサウンドを紹介してきた。個人的にはアメリカ音楽界の重鎮、クインシー・ジョーンズの「スマック・ウォーター・ジャック」も Odyssey ではないか?と睨んでいるんだが、アルバムジャケットのクレジットは Moog になっている。このアルバムには「鬼警部アイアンサイド」「ショーンコネリーの盗聴作戦」等が収録されており、アルバム発売時期にキーボードにデイブ・グルーシンが参加という豪華メンバーで来日公演しており、この時のグルーシンのセットがフェンダーのエレピの上に Odyssey を乗せて演奏する、というパターンだったのだ。

 


 当時のアルバム表記は結構いい加減な物がかったのでもしかして?なんて考えているわけだが、もし Arp サウンドマニアの人がいたら是非チェックして意見を聞かせて欲しかったりする...ではまた!



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