Analog Synthesizer Lecture

Moog IIIc vs Arturia Moog Modular V2

I.VCO 比べ II.ピッチ/フィルター III.音作りa IV.音作りb V.音作りc

 この原稿は2005年頃に無料紙のデジレコに掲載した原稿に筆訂正しています。


IV.Arturia で音作りb:

 

3.世界でも最も Moog Modular を酷使した男、キース・エマーソンに学ぼう!


 前記ポップコーンの作者キングスレイが Dr.Moog と共にキース・エマーソン(ELP)のライブに行き、あまりの物凄い状況に「この世の終わりだ!」と絶叫したという話が ELP のオフィシャルブートアルバムのパンフに書かれている(下記マンティコア・ヴォルツ Vol1)。エマーソンは Moog Modular をロックに持ち込み、しかも凄まじく複雑なパッチと超絶技工的演奏、そしてオルガンをブッ壊すという強烈パフォーマンスで一世を風靡した。そう、彼等の来日時の空港はヨン様も真っ青なほどの大混乱に陥ったのだ!彼が使用していた Moogは Moog Ic から始まり、徐々に拡大して最終的に IIIc よりも大きなセットとなった。また VCO は 1973 年あたりを境に 901 から 921 に切り換えていると思われる。


 Moog サウンドを研究するにあたって要チェックなアルバムは以下の通り。

 

     
     

 

 


 上記のようにMoog サウンドを研究するにあたって、ELP のアルバムは非常に学ぶ所が多い。ここではそのいくつかを紹介してみたいと思う。まず初期のライブアルバム「展覧会の絵」から。


 


a.鍵盤の位置によってスピード変化する LFO


 単純なパッチなのに、意外と効果があるのが下図だ。このサウンドは同アルバムの Track 1 のラスト部分(頭から18'27")に登場する。ポイントは鍵盤のピッチで音程と同時に LFO のモジュレーションスピードをコントロールしている点だ。それだけの事だが、ライブにおいて鍵盤の上を弾いたり下を弾いたりグリッサンドしてみたり、とすると非常に効果的で、鍵盤をかきむしったりすると Good!ついでに後ろであおるようなドラムなんかあるともっと良し!なお鍵盤は61鍵の物を使用した方がLFO のかかり方が派手になり効果がはっきりする。エマーソンはアルバム「トリロジー」の「永遠の謎 Part1」で同様の方法をメロディーに対して使用している(冒頭から37")。

 

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上図サウンドのパッチファイル
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b.オシレターを完全5度にセットする:


 次に Moog の代表的なサウンドのひとつである完全5度にセットされたオシレターによる演奏。これも単純だが非常に効果的だ(頭から 7'40")。ただ単に2つのオシレターを5度の関係(ドとソ)にセットしただけである。


 アルバムでは単音による演奏だが、Arturia では和音演奏も可能だ。この場合、C のコードを弾くと各々の音の5度上が鳴るため CM9 系のサウンドになる。コードの弾き方に注意しないと不協和音だらけの汚い音になってしまうが、中々面白い響きなのでコードバッキングの方法等を研究してみると良いだろう。
 

完全5度にセットされた VCO

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c.ノイズのカッコ良い使い方:


 効果音として有効なのが冒頭から 5'26" に出て来るノイズだ。ここでは単にホワイトノイズを Fixed Filter Bank(固定フィルターバンク)に入れて、色々な周波数帯のノブを上げ下げしているに過ぎないが、ライブでは地響きの様なサウンドからジェット機の様な音まで作りだせる。
 

ノイズサウンド

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d.リボンコントローラーによるパフォーマンス:


 冒頭から 12'20" で聞かれるピッチがメチャメチャに上下するサウンドは Moog IIIc に付属していたリボンコントローラーをメチャメチャに触ってピッチを変えている。これは細長い棒状のコントローラーで触った位置に対応した CV が出力されるシカケだ。Arturia にはリボンコントローラーがないが、Midi コントロール可能なリボンコントローラーが Kurzweil や Doepfer から販売されているので、パフォーマンスで目立ちたい人はチェックしてみる価値があるだろう。


 ただし Midi コントロールになると127段階のピッチ変化しか得られない。実は私もこれは実験した事がないので、誰か勇気のある人は挑戦してレポートでも書いてくれたら嬉しい。ちなみにエマーソンはこのリボンコントローラーをお尻や股にコスリつけたりしてやりたい放題である。


 また ELP のライブ「レディース&ジェントルマン」のタルカス冒頭から9'02" で聞かれるマシンガンのような激しいサウンドもこのリボンコントローラーによるサウンドだ。ここではリボンの根元を左手の親指で押さえ付け(つまり低い音が出る)、右手でリボンの最先端を激しく何度も連打する(突然高い音が出る)という事をやっている。なお同様のリボンコントローラーのパフォーマンスはミニスカートをはいたカッコ良いネーチャンがやってるバンドもあり、パンツ見えそうな体勢で恍惚状態のリボンコントローラーパフォーマンスをすれば、それだけで観客数動員大幅アップは間違いなかろう。


 


e.スタッカートをレガートに、レガートをスタッカートに:


 展覧会の絵、Track 2 の 3'42" から出て来る1音1音音色が変わって聞こえるサウンドは、ADSR のセットを効果的に使用した好例だ。ポイントは下図のようにアタック/ディケイタイムを短く、リリースタイムを長くセットしている点だ。この結果起こるのは、レガートに演奏するとアタック/ディケイがすぐに終わってしまいスタッカートなサウンドになり、逆にスタッカートに演奏するとアタックの電圧が上昇中に ADSR がリリースに移行してしまうため音がレガートになるという事だ。しかもスタッカートの弾き具合によりリリース電圧の高さが変わるため、弾き方を調整すると1音毎に音色の状態が変わるわけである。この音は演奏に少々熟練が必要となるが、面白い効果が引き出せるだろう。

 

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上図のパッチデータ

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f.押したキーに対応してシーケンスが転調する:


 次に同じ ELP のアルバム「恐怖の頭脳改革」からのサウンド。このアルバムで、エマーソンは更に複雑なパッチを利用しており、しかもライブでもそれを再現していて驚かされる。


 アルバムラストに入っている「第3印象」では、鍵盤を押してしばらくするとシーケンサーが走り出し、押したキーから始まるアルペジオが自動演奏される、という方法のサウンドが聞ける。このパッチでは下図のように、鍵盤を押してしばらくすると、デュアルトリガーディレイからの信号でシーケンサーが走り出すわけだ。サウンドはスタジオ盤とライブ盤では全く違う音色で演奏されている。

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上図のパッチデータ

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