Analog Synthesizer Lecture

Moog IIIc vs Arturia Moog Modular V2

I.VCO 比べ II.ピッチ/フィルター III.音作りa IV.音作りb V.音作りc

 この原稿は2005年頃に無料紙のデジレコに掲載した原稿に筆訂正しています。


II.ピッチ/フィルター比べ:


ピッチの解像度は?


 さて、では最初に書いたように極端にピッチを変化させた時のピッチ解像度はどうだろうか?2つの LFO とピッチを LO にして LFO の代わりに設定した VCO で音程を作ってみた(図4のパッチ)。この結果、人間の耳に聞き取れないほど激しく音程が変化する時にはなんとなく音程が飛んで誤摩化されているように聞こえる。しかし、思ったほどではなく、実機と比べると違うかな?という感じがする程度だ。


 意外な事に図4よりずっと単純な図5のようなパッチを組んで、VCO のピッチがゆっくり上下するようにすると、音程が上に昇りきるあたりで段階的なピッチ変化がバレてしまうという現象があった。この問題は VCO ではなく Envelope Generator の変化曲線に問題があるようにも思える。IIIc でも 911 Envelope Generator は Attack Time の設定が3秒を超えたあたりから電圧の上昇が不安定になり、ヘンテコなエンベロープカーブを出力してしまう。Arturia では同様の事をやると Attack で上まで昇りきった電圧がすぐに下がって来ず、上まで行ってしばらくしてから降りて来るような気がする。この点は効果音的にピッチが上下するサウンドを作る時、不自然になるので何らかの修正を加えた方が良いかもしれない。
 

ê}4
図4テストパッチ1



ê}5
図5テストパッチ2


 


フィルターの効き具合は?


 同じく前回書いた Sample and Hold によるフィルターの瞬間的な切り替わりの問題だが、Arturia のフィルター切り替わりのエッジ感はかなり良い。恐らく今まで試したバーチャルシンセの中で最も鋭くフィルターが切り替わっているように思う。それでももし、本当のアナログの Sample and Hold によるフィルターサウンドをソフトシンセで作りたければ、一音一音フィルターの開き具合の違ったサウンドをデジタルレコーダーで録音しておき、音の変わり目でフィルターがなまって聞こえる部分をカットしてしまえば、突如としてフィルターの開き具合が変わるサウンドが作れる。例えば各々のフィルターサウンドをスライスとして Rex ファイルに保存して、キーボードを叩く毎にスライスが1つ移動するような Midi パッチを作れば(Logic や Cubase SX3 の Midi エフェクト作成機能を利用する)ライブで曲のテンポに合わせて変化するフィルターサウンドを作るといった事も可能だろう。


 次にフィルターの効き具合だが Arturia の方が IIIc よりも Resonance(IIIc では Regenaration)が派手にかかる傾向にあるようだ。IIIc ではかなり Resonance を上げないとミャオ〜ンというサウンドにならないが、Arturia では Resonance を3にしたあたりからフィルターのクセが強くなる。特に出力用の VCA(VCA Envelope)で Softclip のボタンをオンにしていると、このクセは更に強調され、フィルターの開閉によって元の音に含まれる倍音位置で共振が大きくなる引き込み現象が非常に目立つようになる。音作りをしている時に、特定の倍音が強調され過ぎるように感じたなら VCA Envelope に付いている Softclip はオフにした方が良いだろう。


 他に IIIc との違いを感じたのは Fixed Filter Bank だ。IIIc ではここに音を通すと丁度フェイズシフターの回転を固定したような妙なサウンドになるのだが、Arturia ではそういったサウンドにならなかった。バージョンアップの時にチェックしてもらえると有り難い。

 


要望事項/その他:


 また、シーケンサー及びリアルタイムでのコントロールだが、これはコラム「Analog - シーケンサー」の中にある「タンジェリンドリームフォロワーの現れなかったわけ」で書いたように単純なスキップ機能を付けて欲しかった。詳しい理由は当該記事を参照してもらうとして、リアルタイムでシーケンサーのステップ状態をコントロールするのは画面とマウスだけでは少々厳しい。できればステップのスキップまたは Next のセレクターがを鍵盤上にアサインして動的なシーケンスフレーズが作れるようになっていれば、ライブで Arturia を使いたい人にも喜ばれるだろう。更に各ボリュームをコントロールする Arturia 用フィジカルコントローラーも欲しい所だ。一般的にソフトシンセのコントロールは Midi キーボードのノブで行うが、これだとどこに何がアサインされているか分かりにくく、特に Arturia のようにパラメーターの多い機種では細かな音作りの時に不便だ。ノブが沢山あるコントローラーよりも、DAW のロータリーポッドのように何回もまわせる物の方が使いやすいように思う。使い方も、変更したいボリュームを右手のマウスで選択し、左手でポッドを回して行くというやり方が Arturia には合うと思う。


 逆に Arturia には IIIc になかった多くの機能が付いている。そのひとつが VCO の 921a にあるパルスワイズ(この言葉はウイズとも書かれるが昔の書籍ではワイズと書かれる事が多かった)で、パルス波(レクタングラー波)以外の波形でも波の形を変える事ができる。この機能により多彩な音色を得る事ができ、オシレターシンクの機能と組み合わせると、かなり過激な音を作る事が出来る。また、好きなように組み合わせる事ができる VCA 群が本体下部にズラっと並んでいるのは音作りファンには涙物の機能だ。IIIc ではこの VCA の代わりに4チャンネルずつ4つのミキサーが付いているが、複雑なパッチをしようとするとすぐにミキサー不足に陥る。私はマニアックな事が出来るように Doepfer のミキサーモジュールを IIIc の下に設置して使っている(下写真)。更に Bode Frequency Shifter のように IIIc ユーザーでもあまり持っていないようなマニアックなモジュールもあるわけなので、あとはあなたの想像力次第という所だろう。
 

Photo7
右側が Moog IIIc サポート用の Doepfer ラック。

各モジュール左側に Moog IIIc に接続しやすいよう標準ジャックのパネルを取り付けてある

 


 使いこなすには相当の忍耐と知識が必要な事に間違いはないが、その昔、夢のマシンだった Moog Modular が手に入るんだから技術の進歩とは有り難い事この上ない。ただ複雑な計算を行っているだけに CPU への負荷は結構高い。わりと簡単なパッチでもレイテンシーを 512 以上にしないと時々ポップノイズが入ってしまう。ま、強力なソフトを使うには、それなりの投資も必要と言う事だろうか。



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