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Wave 2.2:

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   概要  ウンチク  その他
Wave 2.2 はこんな音

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  ウンチク :

●PPG は Palm・Products・Germany の略で,創設者であるウォルフガング・パームの名前からとった社名である。元々は MOOG などのモジュラー・シンセの改造などを行っていたが,1970 年代後半からデジタル・テクノロジーを取り入れたオリジナルのシンセサイザーを開発するようになった。

 初期の PPG モジュラー・システムはタンジェリン・ドリームが使用しており,MOOG の製品に混じってステージに並べられていた。


●Wave 2.2 は 1983 年に発表されているが,そのオリジナルとなったモデルは Wave 2 というシンセである。日本では Wave 2.2 が 1984 年から正式に輸入されはじめた。


●Wave 2.2 の特長はなんといっても,デジタル・オシレターのもつウェーブ・テーブルだろう。これは短い周期的な波形を多数もった音色テーブルで,これをボリュームやエンベロープ・ジェネレーターでコントロール可能にしたものだ。

 たとえばウェーブ・テーブルの頭のほうから順に10%,15%,20%,25%...90%,95% といったパルス波を登録しておき,このテーブルを LFO で順次読み出していく。すると,あたかも VCO のパルス・ワイズを, LFO でゆすったようなサウンドを作ることができる。

 また,隣り合う波形を極端に倍音構成の違うものにしておくと,いままでのシンセサイザーでは得られなかった劇的な音色変化を得ることができるわけだ。

 PPG ではこのオシレターの信号を VCF(24 dB/oct)→ VCA に通してさらに音を加工できる。VCF,VCA ともに専用のエンベロープ・ジェネレーターを装備している。


●ウェーブ・テーブルは全部で 30(表示は 0 ~ 29 番)あり,各テーブルに 64(表示は 0 ~ 63 番)の異なる単周期の波形が登録されている。テーブルの波形の変更は同時期に発売されたコンピューター・ターミナルであるウェーブ・タームによって行う。

 各ウェーブ・テーブルの 60 ~ 63 にはアナログ・シンセでよく使われる基本波形が登録されている。波形は 60:三角波,61:矩形波,62:パルス波,63:鋸歯状波となっている。したがって Wave 2.2 のもつウェーブ・テーブルの波形数はトータルで(64-4)×30+4=1804 種類,これに後述するアッパー・ウェーブが 1 つ入り,1805 種類ということになる。


●ただしなぜかウェーブ・テーブルの 31 番にはピアノ,サックスのサンプリング波形が登録されている。さらにウェーブにはアッパー・ウェーブというモードがある(通常モードはノーマル・ウェーブと呼んでいる)。このモードではテーブルの隣り合った波形の倍音構成が極端に異なっており,これを LFO やエンベロープ・ジェネレーターで動かすと,非常に過激な音色が作れる。

 しかし,この 31 番のサンプリング波形やアッパー・ウェーブに関する論理的な根拠(波形がどのような考え方でテーブルに登録されているかなど)はマニュアルに明記されておらず,単にアッパー・ウェーブは非常に面白い波形が入っているとしか書かれていない。理知的といわれるドイツ人にしては,どうしてこんな『逃げ』のような書き方しかしないのか不満が残る点だ。アッパー・ウェーブなど作らずにノーマル・ウェーブ・テーブルの一つに登録しても同じだと思うのだが...


●Wave 2.2 は 1 ボイス 2 オシレターであり,それぞれのオシレターの波形を同じウェーブ・テーブルの異なる場所から呼んで音を作ることができる。たとえばメイン・オシレターをテーブル 15 番の 10 番目のウェーブで,サブ・オシレターを同じテーブルの 50 番のウェーブで鳴らすといったことができる。各々のオシレターのウェーブは別々なエンベロープ・ジェネレーターでモジュレーションをかけることも可能で,音作りのバリエーションは非常に広い。

 また,1 つの音色プログラムにはグループ A と B の 2 種類の音色データが含まれている。これらはキーボード・モードによって鍵盤上に色々なアサインをすることができる。たとえばキーボード・モード 0 では 1 つの鍵盤に対して A/B どちらかが発音し,その切り替えはディスプレイ・セレクトのグループ・ボタンで行える。モード 1 では鍵盤 1 つにつきグループA/Bの両方の音が鳴り,モード 4 ではスプリット・ポイントを境に上の鍵盤でグループA,下の鍵盤でグループB の音を 4 音ずつ演奏できる。


●ディスプレイ・セレクト・スイッチは 10 個あるが,実際にはコントロール画面はプログラム/デジタル/チューニング/アナログ/シーケンス/グループ/パネルの 7 種類のページで構成されている。以下にその内容を示す。

『プログラム』:

 音色のセレクト,使用されているウェーブ・テーブルの変更,Midi チャンネル・セレクト,データの Save/Load,キーボードのスプリット・モード・セレクト,スプリット・ポイントの設定,チューニングを行う。


『デジタル』:

 アッパー・ウェーブのセレクト,サブ・オシレターのモード・セレクトの他に,キーボードやモジュレーション・ホイール,ベロシティーといったモジュレーション・ソースの VCF,VCA,ウェーブへのデプスをコントロールする。


『チューニング』:

 メイン・オシレターとサブ・オシレターのデチューン,モジュレーション・ホイールによるビブラート・デプスの設定や,オシレターのエンベロープ 3 によるコントロールなどの他に,ボイスごとのトランスポーズも設定できる。通常,各ボイスは全て同じピッチにそろえるが,たとえば 8 ボイス中 1 ボイスだけを 1 オクターブ上にセットしておけば,8 回に 1 回の割合でオクターブ上の音が混じる,といった効果を出すこともできる。

『アナログ』:

 LFO,エンベロープ・ジェネレーター等,パネルの左半分にあるボリュームの値を数値(0 ~ 63)で表示する。テン・キーを使えばこれらを数字で直接変更することもできる。


『シーケンス』:

 後述する極悪シーケンサーの画面である。私はこのシーケンサーで 4 小節以上の簡単なフレーズでも作れた試しがない。マニュアル通りなら作ったデータにフィルターやウェーブのコントロールも自由自在にできるはずなのだが...


『グループ』:

 Wave 2.2 ではキーボード・スプリットを利用して上下 2 種類の音を使ったり,1 つの鍵盤で 2 種類の音を鳴らすことができる。この 2 種類はグループA/B と呼ばれ,グループ・スイッチで切り替えてエディットすることができる。

『パネル』:

 LFO レートやエンベロープ・ジェネレーターのボリューム・ツマミを別なモードで使用する。パネル・ボタンを押すとセカンド・パネル・モードになり,パネル上のボリュームをシーケンサーのパラメーター変更用に別利用できる。セカンド・パネル・モードではソフトのバージョン・アップ時に利用できるボリュームの数をさらに増やすつもりでいたらしい。


●Wave 2.2 のサウンドは非常にクリアで音圧感があり抜けがよい。そのクールなサウンドは不思議なことにいかにもドイツ!という感じなのである。

 このサウンドはタンジェリン・ドリームのライブ(『ロゴス』の冒頭部分が代表的サウンド)等で耳にすることができる。

ドイツ発で世界ヒットしたロックバルーンは99のネーナ。

このバンドのキーボード(ドイツの有名なプログレバンドのメンツが参加していた説あり)がステージ上で PPG を弾いていた(当時は LD が出ていた)。ただし、弾き真似だけだったけど。


タンジェリンドリームのライブ、ロゴス。PPG サウンドがたっぷり楽しめる。


クラウス・シュルツのライブ。
この頃の機材写真を見ると Moog のモジュラーに混じって PPG のモジュラーも混じっている。ただ、どの音かは判別不能。


●本体内部は驚くほど簡単な構成になっており,マザー・ボードに 4 枚の基盤が縦にささっているだけでとても 260 万円もする楽器の中味とは思えない。そのマザー・ボードも本体右奥にあるだけで,左半分には電源以外何もない。この基盤の取り付けは非常に簡単で安易であり,一度中を開けて見てしまったら,メンテ・スタッフがいなければ二度と Wave 2.2 をステージで使おうなどと思わなくなるだろう。


●PPG のコントロールには 68A09 というコンピューター・チップが使用されている。またプログラムの ROM は 48K バイト,音色メモリー用に 16K バイト,ウェーブ・テーブル用に 16K バイトの RAM が搭載されている。


●Wave 2.2 のウェーブ・テーブルやシーケンスの作成/編集やサンプリングにはコンピューター・ユニット『ウェーブ・ターム』を利用する。2.2 用はウェーブ・ターム,2.3 用がウェーブ・タームB なので購入時の組み合わせには注意が必要。ただし初期のウェーブ・タームのソフトは劣悪なので買う場合にはソフトのバージョンについて詳しくチェックするべきである。初期のウェーブ・タームはフロッピー・ドライブが 8 インチ(後期は 5 インチ)なので,このバージョンにも要注意だ。

 たとえば,通常のサンプリングはボタンを押すとサンプリングが始まり,メモリーがフルになるとサンプリングが終了するわけだが,ウェーブ・タームの初期ソフトではなんとサンプリング・エンド・ボタンを押すとサンプリングが終了するというとんでもないシステムになっていた。つまりサンプリング・モードに入ると常にサンプリングが行われ,エンド・ボタンを押すことによってサンプル・データがメモリーにキープされるのである。したがって欲しい音の頭が欠けてしまったり,逆にいりもしない余白が頭についてしまったりと,ユーザーの神経を逆なでした。

 また,シーケンサーなどでは Wave 2.2 にもシーケンサーのスタート/ストップ・ボタンがあるのに,ウェーブ・タームにも同じ機能のファンクションがあったりとユーザーは混乱に陥る。この混乱は PPG の EVU や PRK 等の拡張ユニットでシステムを大きくすればするほど深刻になり,それぞれのユニットに同じようなシーケンサー機能があり,一体どれが親として動くのかは全くわからなくなる。

 PPG はマニュアルもしっかりしておらず,この辺に関する記述はほとんどない。実際,私は PPG の関連機器の日本国内でのデモンストレーションをほとんど行ってきたが,Wave 2.2/2.3 以外の機器についてのオペレーションは全て楽器ディーラーに任せていた。ディーラーも各ユニットについては完全に把握しておらず,その時その時の新製品のデモ仕様マニュアルにそって機器を動かしていただけである。

 自分でもウェーブ・タームを買おうかどうしようか悩んだ時期があり,1週間だけ機械を借りて色々実験をした。しかし途中でシステムが止まることが多く,あげくの果てにはシーケンサーが暴走して,わざわざ作ったウェーブ・テーブルやサウンド・データが全てとんでしまった!数百万単位の機械とは思えないことである。

 このシステムを完全に理解していたのは恐らく設計者のパーム氏一人だと思うのだがどうだろうか...


●PPG 製品のソフトウェアは,その後 PRK,EVU と新製品が出るごとに崩壊の度合いが増し,ついに HDU(ハードディスク・レコーダー)ではデモンストレーションさえうまくいかなくなり,幻の楽器といわれるリアライザー(MOOG や F.M.音源などをシミュレートできるシステム)で会社ごと崩壊した。リアライザーについては,開発に関与した人達が一様に『その事は思い出したくもない』と黙秘権を行使する。


●そういうわけで,今さら使う人はいないと思うけど Wave 2.2 本体に入っているシーケンサー機能は使わないほうが身のためである。


●PPG 初期モデルでは Midi は搭載されていないが,ウェーブ・ターム等との交信のため独自の PPG コミニュケーション・バスが用意されている。PPG では Midi 機能が搭載されたのが比較的遅れたが,この辺は Midi の連絡協議会がドイツになく,細かい情報が収集できなかったためと説明されている。


●Wave 2.2 のサウンド・データは 8 ビット,2.3 では 12 ビットになっている。2.3 では 2.2 と違いサンプリング・データが他のサウンド・データと同じように扱える。また,マルチ・ティンバーになり,最初から Midi が搭載されているという点も違っている。


●PPG の本体鍵盤は,すぐに段差ができてガタガタになる。したがって中古で買っても Midi で制御する音源として使ったほうが無難である。


●PPG はその後,倒産し WALDORF という名称になって Wave シリーズのラック版ともいえる MicroWave,そしてヲタク心をくすぐる The Wave という大型シンセを発売した。The Wave はボリュームやスイッチが多数並び,見た目は買い!だが,PPG 時代のソフトのひどさもあったので,誰か買った人が『全然問題ないよ!』と言ったら買おうかと思っていた。しかし,誰も買わないうえに,どの店に行っても売ってない。早くもビンテージ殿堂入りの噂,しきりである。2 ~ 3 年後くらいに叩き売りで値段が底値になった時が買い!か?


●Wave 2.2 ,2.3 ともにウェーブのモジュレーションによる音色変化や,デジタル・コントロールによるウェーブ・コントロールなど,まだまだ現役で面白い音作りに使用できる可能性を秘めたマシンだといえる。メンテの問題が何とかなるなら多少高くても買っておいて損はない機種といえるだろう。


外部とのインターフェイス

CV/ゲートのイン/アウト:あり

MIDI:MIDI なしバージョンを買っても今さら追加不可能。Wave 2.3 には最初から装備。