a:Envelope Generator の基本:
・Envelope Generator(エンベロープ・ジェネレーター)。日本語に訳すと包絡線電圧発生回路(なんだそりゃ)。
・一般的な Envelope Generator は楽器音のもつ最も代表的な音色/音量の変化カーブ(エンベロープ・カーブ)を作れるよう以下の4つのパラメーターが調整できるようになっている。
・A = Attack(アタック):鍵盤を押してから,その出力電圧が最大点に達するまでの時間。
・D = Decay(ディケイ):アタック以後に出力電圧が減衰していくまでの時間。
・S = Sustain(サスティン):鍵盤を押している間のの持続電圧レベル。
・R = Release(リリース):鍵盤から手を離してから出力電圧が完全にゼロになるまでの時間。
・これらの頭文字をとって Envelope Generator は ADSR とも呼ばれる。
・以下に4つのパラメーターと出力電圧の関係を示す。
Envelope Generatorの概念図
・4つのパラメーターを操作したサウンドを以下に示す。
A:アタック・タイムを徐々に上げていく。
D:ディケイ・タイムを徐々に上げていく。
S:サスティン・レベルを徐々に上げていく。
R:リリース・タイムを0から徐々に上げていったサウンド。
・ヤマハ CS-80 のように、更に複雑なエンベロープを作れる機種もある。
CS-80 のエンベロープには IL(イニシャルレベル)、AL(アタックレベル) といったパラメーターがある。
・また、ADSR の簡易版 AR もある。AR の概念図を以下に示す。
AR の概念図
・Envelope Generator の電圧を VCO に送れば音程が、VCF に送れば音色が、VCA に送れば音量が時間と共に変化する。
VCO を Envelope Generator でピッチ・コントロールして演奏。
・Envelope Generator の4つのパラメーター(ADSR)を電圧で制御できる Voltage Controlled Envelope Generator もある。
<参考>
現在はシンセサイザーの ADSR の名称は一般的な楽器にも使用されているが、黎明期には色々な意味に使われる事が多かった。特に Sustain という言葉は、電子オルガンでは Release の事を意味する事が多く、Sustain ボタンをオンにすると鍵盤から手を離した後の音に余韻(Release)が付くという機種がよく見かけられた。
同様に Attack という言葉も Decay として使われる事があった。一般の言葉でもアタック感というのはシンセで言えば Attack Time と Decay Time の両方を意味する場合が多い。
Gate と Trigger:
・キーボードを演奏すると Keyboard CV が出ると書いていたが、これは音程を制御するための信号で、その他に Envelope Generator を動作させている信号がある。これが Gate(ゲート)信号で、Envelope Generator はこの Gate 信号を受けると動作を開始する。
・一般的な Gate 信号は鍵盤を押している間オンになり、鍵盤から手を離すとオフになる。
・またシンセによっては鍵盤が Gate 信号の他に Trigger(トリガ)信号を出力するものもある。Trigger 信号(略して Trig と書く事が多い)は引き金になる信号という意味で、Keyboard で音程を弾きかえるたびに短時間出力される。Envelope Generator によっては Trig 信号を受けると Decay と Release だけが再起動するタイプのものがある。これは鍵盤上でトリルを弾いた時などに、最初の一音で Gate 信号がオンなり、その後レガートに弾くと Gate 信号がオンになりっぱなしになってしまい、Envelope Generator が再起動しないため、セッティングによっては音が途切れてしまう現象を避けるための物である。以下にその例を示す。
Gate 信号だけで Envelope Generator 演奏した場合。次に Gate 信号に Trig 信号を重ねて Envelope Generator を動作させて演奏した場合。
・キーボードと KCV、Gate、Trig の関連を以下に示す。
KCV、Gate、Trig の関係
・機種によっては Gate と Trig の表記が曖昧なものがある。Korg や Moog では Gate を Trigger と表記している。
・Roland や Arp, Oberheim は Gate と表記していた。
・また同じ会社でも EML のように時期によって Trig と Gate の表記が違っているケースもある。
V-Trig と S-Trig:
・現在は Gate 信号を Trig と表記する事はあまりない。ただし、古いシンセを購入した場合には、Gate と Trig の表記について注意が必要な場合がある。
・古いシンセ、特に Moog や Korg では Gate 信号の特性が違うケースがある。Moog IIIc や Minimoog では Gate 信号を S-Trig と表記し、コネクターもシンチ/ジョーンズという特殊な形状の物を使用している。Korg は普通の標準ジャックを使用している。
・S-Trig はスイッチ・トリガ(Switch Trigger)の略称で、鍵盤から手を離した状態で +10V 前後、鍵盤を押すと電圧が 0V(グラウンド)になる。
・S-Trig に対して現在一般的に使われている Gate は V-Trig(Voltage Trigger の略称)と呼ばれている。またコネクタも標準ジャックを使用している。
・V-Trig は鍵盤から手を離した状態で 0V(グラウンド)、鍵盤を押すと +5V 以上(メーカーによって異なる)の電圧が出るタイプである。
・S-Trig を V-Trig に変換するには、コネクターのプラスマイナスを逆に配線する(これはうまく行かない時もある)か、トランジスタを1つ使った簡単な変換回路を作ってやる必要がある。
<参考>
・S-Trig を採用した Moog だったが、Moog IIIc を見ると、S-Trig と V-Trig が混在している。
・Moog IIIc では Envelope Generator には S-Trig(コネクターはシンチ/ジョーンズ>下写真参照)、シーケンサーのコントロールには V-Trig(コネクターは標準プラグ)が使用され、双方を接続するために INTERFACE というモジュールが存在している。以下に INTERFACE の写真を示す。
古い Moog の S-Trig に使用されていたシンチ/ジョーンズのコネクター
Moog IIIc のINTERFACE モジュール
・Moog 製品では Minimoog や Polymoog でも S-Trig のシンチ/ジョーンズ・コネクターが使用されている。しかし、後期の Rogue ではコネクターは標準プラグとなり、S-Trig と V-Trig の両方が使用できるような設計になった。ただし、名称は最後まで Trig のままだった。
・世界的な流れとして、名称は Gate に、方式は V-Trig に、コネクターは標準プラグに、となって行った。これには恐らくコンピューターを使用したシーケンサー MC-8 以降の製品を出した Roland の影響が強いと思われる。テクノミュージックの基礎を作り出した同製品は世界のアーティストが使用するようになり、その結果シンセも、この製品の標準に合わせざるを得なくなったと考えられる。
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