Analog Synthesizer Lecture

VCF(Voltage Controlled Filter):

a:VCF の基本   b:色々なシンセの VCF パネルを見てみる

a:VCF の基本:

 ・VCF は Voltage Controlled Filter の略で、日本語では電圧制御型濾波(ろは)器という(日本語で言う事は絶対ない)。

 ・VCO の解説でも書いたように「Voltage Controlled」の意味は「電圧で制御されたという事で、VCF の場合、音色を入力電圧の高低でコントロールする。VCF の種類によっては音色以外にも電圧でコントロールできる機能がある(後述)。

 ・VCF の F = フィルターは、音色を変えるための回路で、特定の周波数をカットまたは増幅する事によって VCO から送られてきた音色に変化を与える。 このカット/増幅する周波数の位置を決めるボリュームをカットオフ・フレケンシー(Cutoff Frequency)と言う。カットオフ・フレケンシーはマニュアルか CV でコントロールできる。
 

 ・かなりぶっちゃけた言い方をすれば、フィルターはステレオに付いてるトーンコントロールや、iPod の EQ の亜種と考えられる。それらの音質調整機能と違うのはほとんどのトーンコントロール機能が、あらかじめ用意された周波数帯の音を強調したり減衰させたりするのに対し、VCF では強調/減衰の周波数帯を CV の高低でコントロールできるという点である。

 ・音色を変える、という事は、元の波形に含まれる倍音の含み具合を変える、という事である。
 

 ・フィルターにはいくつかのタイプがあり、もっとも一般的なフィルターが Low Pass Filter (ロー・パス・フィルター= LPF )である。LPF はその名の通り、低い周波数帯を通過させる機能を持つ。逆に言うと、ハイカット・フィルター(高域をカットするフィルター)という意味でもある。ステレオ等の呼び名ではハイカット・フィルター、ローカット・フィルターという場合が多いが、シンセではローパス、ハイパスという言い方をする。

 ・以下に Low Pass Filter を使った音色の変化の例を示す。

G232

Low Pass Filter の概念図

VCF(ロー・パス)に鋸歯状波を送り、カット・オフ・フレケンシーを上下する

 ・上記サンプルを聞くと分かるように、Low Pass Filter では Cut Off Point(上図参照)より上の周波数帯をカットする。したがってボリュームを下げると高域がカットされて柔らかい音になるわけである。この Cut Off Point を動かすボリュームが上記の Cutoff Frequency(カットオフ・フレケンシー/Cut Off と2単語で表現する場合と Cutoff と表現する場合がある)と言う事になる。

 ・Cutoff Frequency は機種によっては単に Frequency と書かれていたり、Filter Tune と書かれていたり、様々である。

 ・Low Pass Filter では Cutoff Frequency を上げれば硬い音に、下げれば柔らかい音になる。ただし VCO から送られて来る音が元々柔らかい音(例えばサイン波とか)だと、Cutoff Frequency を上げても音が硬くなる事はない。

 ・Filter の種類にはこの他に、High Pass Filter(HPF、高い成分のみを通過させる=低い周波数帯をカットする)、Band Pass Filter(BPF、特定の周波数帯のみを通過させる)、Band Reject Filter(Band Pass Filter の逆で、特定の周波数帯のみをカットする。Notch と呼ばれる事もある)などがある。

 ・以下に High Pass Filter、Band Pass Filter、Band Reject Filter の概念図と音を示す。

G139

High Pass Filter の概念図

VCF(ハイ・パス)に鋸歯状を送り、カット・オフ・フレケンシーを上下する

 


G151

Band Pass Filter の概念図

VCF(バンド・パス)に鋸歯状波を送り、カット・オフ・フレケンシーを上下する



 


G152 

Band Reject Filter の概念図

VCF(バンド・リジェクト)に鋸歯状波を送り、カット・オフ・フレケンシーを上下する



 


 ・上のサウンド例でも分かるように、VCF の Cutoff Frequency の位置が VCO から送られてきている音の基音よりも下(LPF の場合、HPF の場合は基音よりも上)になると音は消えてしまう。


 


 ・フィルターには効き具合というものがある。これは Cut Off Point から上(LPF の場合、HPF なら下)の周波数をどのくらいの割り合いでカットするか?というもので、上図で言えば Cut Off Point から先の傾斜がどの程度急になるかなだらかになるか?の違いになる。

 ・フィルターの効き具合を Pole(ポール)または db/oct(デシベル・パー・オクターブ)という言葉で表す。1 Pole は 6 db/oct で、これの意味する所はカットされる周波数が1オクターブ上または下(つまり倍または半分の周波数)で音量が半分に下がるという事になる。また 2 Pole なら 12 db/oct で同様の周波数の音量が 1/4 に、4 Pole なら 1/16 となる。db について更に詳しくはグロサリーのデシベルの項を参照のこと。


 ・図に示した場合、フィルターが信号をカットする角度(スロープ)が急なほどフィルターの効きが良いという事になる。下図参照。

G96

フィルター特性の概念図


 ・フィルターの効き具合は Pole 数、db/oct の値が大きいほど良く効くようになる。例えば 12 db/oct のフィルターより 24 db/oct のフィルターの方が効きが良い。ただし、効きが良いから良い音であるというわけではない。

 ・一般的なシンセでは 2 Pole = 12 db/oct か 4 Pole = 24 db/oct の VCF が搭載されている。また 1970 年代のマニアックなシンセでは 6 db/oct の VCF が搭載されているものもある。また最近のソフトシンセやガレージメーカーの VCF では 36 db/oct 以上のフィルターが搭載されているものもある。

 ・シンセの機種によってはフィルターの効き具合や種類(LPF/HPF)を切り替えられる物もある。また複数のタイプのフィルターを搭載しているものや、メインの LPF の他に CV コントロールできない簡易 HPF を搭載している機種など様々である。

 ・上記のように VCF のカットオフ・フレケンシーの位置は CV でコントロールできる。普通、VCF には複数の CV in が付いているが、ここにつながれた CV は VCO と同じように全て加算回路で足し算されて VCF 本体に送られる。この様子を下図に示す。

VCF の CV in の概念図

VCF の CV in の概念図

 ・VCF にかける CV と Cutoff Frequency の位置の関係は VCO と同ように、Oct/V の関係になる。例えば Cutoff Frequency の位置が 1V で 440Hz にあったら、2V をかけると 880Hz に、0.5V なら 220Hz の位置になる。

 ・VCF の CV in のひとつには大概 KCV がつながれる。もし KCV のボリュームが 0 だとカットオフ・フレケンシーの位置が固定になってしまう。このため VCO から送られて来る信号のピッチが変わってもフィルターの開き具合が一定になってしまい、鍵盤で音域を弾き変えてもフィルターの状態が変わらず、弾く音域によって音色が変わってしまう。例えばフィルターが LPF だった場合、低い音域ほど音が硬く、高い音域ほど音が柔らかくなってしまう。

 ・楽器によっては音域によって音色の変わる物もある。例えばオーボエは下の音域ではクセ
の強い音色だが、上の音域へ行くとフルートのように丸い音色になってくる。この場合、VCF の KCV 加算の度合いを半分くらいにした方が効果的である。

 ・VCF へ KCV をかける度合いは、ボリュームで微調整できるものや、スイッチでオンオフを選ぶもの、また0%、50%、100%の3つの段階で選ぶものなどがある。

 ・上記のような VCF に送られる KCV の度合いのボリュームをキー・フォローまたはキーボード・フォロー(Key Follow、Kybd Follow、Kbd Follow)と呼ぶ事もある。

 ・LFO のサイン波を VCF に送って得られる効果を特にグロウル(Growl)と呼ぶ事があり、シンセ(特にプリセットタイプ)では、この表記が用いられる事が多い。

スピードを変化させたグロウルのサウンド

 


 


レゾナンス(Resonance):

 ・VCF にはカットオフ・フレケンシーの他にレゾナンスというボリュームがある(大概はカットオフ・フレケンシーの右隣に付いている)。レゾナンスはカットオフ・フレケンシーで周波数がカットされる Cut Off Point にある周波数帯の音が強調される。

 ・レゾナンスは機種によって Emphasis(エンファシス)、Regeneration(リジェネレーション)、また単に Q と呼ばれる事がある。 

 ・レゾナンスを上げると音色はクセの強い音になり、この状態でカットオフ・フレケンシーのボリュームを動かすとシンセ独特のミャオーンというサウンドになる。

 ・レゾナンスによる音色変化の例を以下に示す。

G227

レゾナンスを上げた時の波形の変化

レゾナンスを上げたVCF(ロー・パス)に鋸歯状波を送りカットオフ・フレケンシーを上下する


 ・多くの機種では Resonance のボリュームを8以上にすると自己発振するように設計されている。この発振音は純粋なサイン波で、その発振周波数はカットオフ・フレケンシーの位置になる。したがって、VCF への KCV を最大にしていると発振音は鍵盤の音程と同じになり、音階演奏等に利用できる。例えば口笛の音は、この方法で作る事が多い。

 

カットオフ・フレケンシーを動かしながら、レゾナンス(エンファシス)を0~10に上げていく

 

 ・モジュラーシンセの VCF では、この Resonance の度合いを CV で変更できる物もある。


 



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