a:VCO の基本:
・VCO は Voltage Controlled Oscillator の略で、日本語では電圧制御発振器という(日本語で言う事はまずない)。 ・Voltage Controlled の意味は「電圧で制御されたという事で、VCO の場合、発振周波数=音程(ピッチ)を入力電圧の高低でコントロールする。VCO の種類によってピッチ以外にも電圧でコントロールできる機能がある(後述のような PWM 等)。 ・アナログシンセの場合、ほとんどのモジュールが電圧でコントロールできるように設計されている。これらのモジュール名の先頭にはたいがい Voltage Controlled がつく。例えば Voltage Controlled Phaser 等。 ・もちろん入力電圧のほかに、回路への電源電圧は一定の高さで常に供給されているので、勘違いしないように。 ・シンセサイザーの VCO やその他のモジュールをコントロールする電圧をコントロールボルテージ(Control Voltage=制御電圧、略してCV)という。 ・VCO の場合、入力される CV が高ければ高い周波数(=高い音程)、低ければ低い周波数 (=低い音程)が出力される。
・VCO の CV入力(CV in)にかける電圧の高さと、VCO から出力される周波数の関係は国際的に規定されている。 ・国際的に規定された VCO の発振周波数と CV の関係は、入力電圧が1ボルト上がると、出力される周波数は2倍になる=音程がオクターブ上がる。このような規格を Oct/V(オクターブ・パー・ボルト)または、V/Oct(ボルト・パー・オクターブ)という。
・Oct/V の規格では VCO に入力される CV の高さと出てくる音程のオクターブ関係が正比例する。
・CV in/outの付いてるシンセサイザーであれば、他社の製品でも利用することが出来る。
・1970年代には Oct/V 以外に Hz/V(ヘルツ・パー・ボルト)という規格があったが、現在発売されているアナログシンセでは採用されていない。オークションや中古楽器屋で古いシンセを買う場合には注意が必要である。この規格を採用していたのはコルグ、ヤマハであった。
・Hz/V は VCO の入力電圧に対して出力周波数が正比例する。
<参考>
Hz/V と Oct/V では、圧倒的に Oct/V の方が使いやすい。例えば Oct/V なら、ある音程を1オクターブ上げようとした場合には、CV を1ボルト上げるだけで良い。2オクターブ上なら2ボルト、3オクターブ上なら3ボルトという単純な足し算をするだけでピッチを変えられる。
しかし同じ事を Hz/V のシンセでやろうとすると、音域によって電圧の高さを変える必要が出る。例えば、1Vで100Hzの音程が出力されていた場合、音程を1オクターブ上げるなら2Vにすれば200Hzになるが、もし2オクターブ上げようとすると周波数は400Hzにならなければならないので電圧も4ボルトにする必要が出てくる。同様に3オクターブ上げるためには8ボルトが必要になる。
また上下に1オクターブ揺れる極端なビブラートを作ろうとした場合、V/Oct なら単に上下に1ボルトずつ動く波形を VCO に送れば良いだけである。
しかし、同様の事を Hz/V でやった場合、上記のように1Vで100Hzが出ていたとすると1オクターブ下は50Hz、1オクターブ上は200Hzなので、VCO に送る波形の下側は 0.5V、上側は 1V という複雑な波の形を作る必要が出てきてしまう。
よって、Hz/V タイプのシンセは拡張性に乏しかったのである。
では、なぜ Hz/V が存在したかというと、当時の部品で作れる回路の精度の問題があったのである。Hz/V は周波数と電圧が正比例なので設計が簡単だった。これに対して Oct/V では周波数と電圧は対数(指数)関係にあるため、対数変換の回路が必要になり、これが当時の部品で精度を上げる場合のネックになっていたのである。
この対数変換のための回路をアンチ・ログ・アンプ(Anti Log Amp)と言った。以下に Oct/V タイプの VCO の CV と出力周波数の関係をグラフに示す。
Oct/V VCO の CV と出力周波数の関係
1970年代のアナログシンセの鍵盤数が少ないのはこの理由による。鍵盤数が多いと対数変換の精度が落ち、音域によってチューニングがずれてしまったのである。このような精度を直線性=リニアリティと呼んだ。例えば初期 Moog の VCO はこのリニアリティが非常に低い。
Hz/V 方式のシンセはこの不安定な回路がない分だけ音程が安定し、回路も単純化する 事 ができたため、価格も安く設定する事ができたのである。
問題の直線性の精度は、主にアンチ・ログ・アンプのために使用される IC の周囲の温度に対する不安定さに左右された。例えばライブの場合、客席に人のいない状態でリハーサルをやった場合と、満席状態に照明の入った本番ではステージ上の温度が全く違ってくる。このため、リハではピッチが合っていたのに本番ではメチャメチャなんていう事がよくあったのである。
この問題を解決するためにローランドが開発したのが、恒温槽付 IC なるものだった。恒温槽は電子機器のテスト等に使用される温度を一定にする機械で、これにより機器の耐久性や温度特性をチェックしていた。ローランドではアンチ・ログ・アンプ用 IC の周りに発熱する電熱コイルを入れて、電源投入後すぐに IC を暖めてしまうという方法をとった。このおかげで、ローランドのシンセは電源投入後5分ほどで音程が安定するようになったのである。
☆鍵盤からの CV やビブラートのコントロールでは矛盾の多くなる Hz/V のシンセだが、ひとつとても面白いのは、ヤマハの CS-80 のようにリボンコントローラーを使用した時、音程の変化が上に狭く、下に広くなるという事だ。リボンコントローラーは細長い接触部分を指で触ると、それに対応した電圧が出力されるというデバイスで、キース・エマーソンの過激なパフォーマンスで有名である。 この CS-80 のリボンコントローラーを使用してベンディングをすると上方向には1オクターブ、下方向では5オクターブ近く音程が変えられる。ギターのベンディングでは上方向にはせいぜい1音半しかアップできないが、下方向ならトレモロアームを使うと相当下まで音を下げる事が可能だ。CS-80 のリボンコントローラーではこういった効果を出す事ができるわけだが、これは Hz/V による規格のなせる技と言えるわけだ。 グロサリーのアンチ・ログ・アンプ(Anti Log Amp)の項も参照の事。
・普通、VCO には複数の CV in が備わっている。これら複数の CV in に接続された電圧はすべて加算されて VCO 本体に送られる。例えば以下の例のように1番目の CV in に1ボルト、2番目に3ボルト、3番目に−2ボルトの電圧がつながっていれば1+3−2=2で、VCO 本体には2ボルトの電圧がかかる事になる。
加算される CV
・図にも書かれているように複数の電圧を加算する回路を電圧加算回路(サミングアンプ=Summing Amp)と言い、複数の CV in の付いているモジュールはみな、このような加算回路で電圧が足されることになる。
・VCO では Oct/V になっているわけなので、鍵盤(ギター等でも可)で半音階を演奏させようとした場合、1オクターブは12個の半音で成り立っているので、半音ごとに1/12V(約0.83V)ずつ変化する電圧を鍵盤で作って VCO に送ってやれば良い。このようい鍵盤で作られる CV をキーボード CV = KCV(表記は KYBD CV、KBD CV 等さまざま)と呼んでいる。
・例えば3VでCの音を発振している VCO があった場合、鍵盤で音階を演奏すると以下の表のような CV が出力される事になる。
CV <> ピッチ表
・VCO の CV in に買ってきたばかりの単3電池をつなぐと音程はどうなるか?乾電池は1.5Vなので、1オクターブ半音程が変わる(上がるか下がるか)。電池を±逆にすると、音程は逆方向に1オクターブ半変わることになる。
・CV in の事を Modulation In などと表記する機種も多い。
・VCO の CV in に LFO をつなげて、ゆっくりしたサイン波でモジュレーションをかけた場合をビブラートと呼んでいる。また矩形波でモジュレーションするとトリルの演奏をする事ができる。
最初、サイン波によるビブラート、次に矩形波によるトリルのサウンドを作る。
矩形波ビブラートを多用したシンセが聞ける、ビリー・コブハムの「スペクトラム」。
1曲目の出だし部分のシンセとドラムの対決は凄まじい。鬼のような演奏です!
ピッチ以外の CV in:
・VCO の CV in にはピッチをコントロールする以外にもいくつかの CV in がある。そのひとつがパルスワイズ=Pulse Width である。
・Pulse Width の「Width」は色々な読み方がある。ウィドスと読んだりウィズスと読んだりだが、そもそも th の発音は日本語にないので、ここでは昔のローランドでの慣習に従い「ワイズ」と読む事にする。
・パルスワイズ はパルス波= Pulse Wave の波の形のことだが、まずパルス波について説明しておこう。
・パルス波は矩形波に似ている。矩形波と違うのは、矩形波が波形の上と下の比率が50%であるのに対し、パルス波ではその比率(パルスの幅)がまちまちであるという点である。このような理由でパルス波は非対称矩形波と呼ばれる事もある。以下にいくつかのパルス波の 例 を示す。
色々な種類のパルス波 パルス波を 50% から 90% に変えていく
・パルス波はオーボエやファゴット等のダブルリード(発音部分がリードを2枚重ねているもの)系の木管楽器やクラビネットの音源に利用される。
・パルスの幅があまり細くなると音が聞こえにくくなってくる。
・このパルス波のパルスの幅を電圧の高低で変えるのがパルスワイズモジュレーション(Pulse Width Modulation、略して PWM)である。
・上記の PWM という名称は現在では一般的だが、機種によって表現が違う。例えば Moo g では Width Of Pulse Waveform だったり、Width Of Rectangular Wave だったりと場所によって書き方が違う。
・シンセサイザーの機種によっては PWM のない VCO もある、またパルス幅を変えられても CV でのコントロールはできないものもある。
・パルスワイズモジュレーションでもっとよく使われるのが、LFO、または VCO の低い 周 波数のサイン波を使って、パルスの幅をゆっくりと変える技である。この方法では VCO から出力される音は、2つの音源が鳴った時に起こるコーラス効果に似ている。
パルス波の幅をゆっくりと揺らす
・PWM をゆっくりと変える事によって作られる音は、ポリフォニックシンセでストリングス系の厚い音を作る時に使われる。
・エンベロープジェネレーターの電圧を使って PWM をかければ、パルスの幅を時間と共に変化させる事ができる。
・VCOのその他の機能 / 2.シンク(Sync):
・シンクは同期の意味で、2つの VCO のうち、1つ目の VCO(マスターオシレター)が2つ目の VCO(スレーブオシレター)の波形を強制的に揃える。概念を以下の図に示す。
2つの VCO をシンク
・図で、2つのオシレターの波形の出だし部分ををよく見るとわかるようにスレーブオシレター(以下スレーブ)の発振周波数はマスターオシレター(以下マスター)とは違う。しかしシンクされたスレーブはマスターの波形が頭に戻ったとき(図の例ではマスターの波形が上にのぼった瞬間)、スレーブの波形も強制的に頭に戻されてしまう。この結果、スレーブの波形は複雑な形になり音色も鋭い音になる。
・シンクにはストロング(Strong)とウィーク(Weak)の2種類のモードがある。シンクモード切り替えのないシンセではストロングのモードになっている。ストロングではスレーブのピッチがどうあっても、とにかくマスターの波形が頭に戻る瞬間、スレーブの波形も強引に頭に戻される。そのため、スレーブのピッチはマスターと全く一緒になる。ただし、スレーブで設定したピッチの倍音は微妙に残っており、ギターのフィードバック奏法のような過激な音を作る事ができる。
・これに対してウィークは2つのオシレターのピッチがユニゾン/完全4度/完全5度などの整数比関係にあるとき,ロックがかかり2つのオシレター間のビートがなくなる。2つのオシレターのピッチが整数比に近ければうまくロックがかかって奇麗に聞こえるが、ずれが大きいとパチパチとロックのかかる音が目立ってしまい、あまり使えない。ビートのない音程関係を作りたい時に有効である。
シンクのテスト最初はウィークで、スレーブのピッチを動かす。次に同じことをストロングにしてやってみる。
・シンクモードがストロングの場合、もしスレーブのピッチを変えると、音色はどんどん変わっていく。スレーブのピッチをエンベロープジェネレーターを使って時間的に変化させると、VCF をいじったのとは全く違う音色変化を作り出す事ができる。例えばヤンハマーのやっていたギター風のサウンドはシンクを多用したものと考えられる。
<参考>
シンクに関しては Moog の 921 オシレターは、かなり細かい設定ができるため、より複雑なコントロールをしたい場合に便利である。以下に 921 オシレターの写真を掲載する。
Moog 921 VCO のパネル
上記の写真で CLAMP と書かれているのがシンクのコントロール部分である。CLAMP TRIG. に V と S というのがあるが、このどちらかに電圧(正確にはトリガ信号>後述)がかかると VCO の波形は、その隣にある CLAMPING POINT で設定した波形の場所に強制的に戻される。
前記のシンクでは波形はシンクがかかると強制的にその波形の頭の位置に戻されていたが、CLAMPING POINT を調整すると、波形の途中から再スタートする事が可能になる。
例えばビブラートをかける時に鍵盤を弾くごとに CLAMP TRIG にトリガ信号を送って、波形を頭に戻せば、ビブラートは音が出ると必ず上方向に音程が上がってから下がるという事を繰り返す。しかし CLAMPING POINT でスタート位置を変えると、音が出るとき必ず下方向に音程が下がってから上がる、という設定が可能になる。
このように波形のどの場所からスタートさせるか?を調整するのが CLAMPING POINT の役目である。この波形の始まる位置を位相角と呼んでいる。位相角について下図に示す。
色々な位相角
図に示したように、波形の出だし部分を位相角0度、波形の中間地点を180度と呼んでいる。もし、元の波形に対して位相角を180度ずらすと、波の形は上下逆になる。これを逆相と呼んでおり、ステレオのスピーカーケーブルのプラスマイナスを逆につないでしまった時に、音の聞こえ方が変わるのも、波形が逆相になってしまったために起こる現象である。
921 VCO の CLAMPING POINT は、この位相角を何度からスタートするか?を決めるボリュームである。もし位相角90度にすれば、CLAMP TRIG に信号が来るたびに、波形は高い位置から降りて来る事になる。
上記の図はサイン波の例だが、他の波形でも同様である。
・色々な波形:
・VCO が出力する波形は機種によって様々だが、ほとんどのシンセサイザーは以下のような波形をスイッチまたはボリュームで選択する事ができる。
・このサイトでの色々な図は、コンピューターで書きだした奇麗な波形が表示されてい る が、実際のアナログシンセサイザーでは、回路設計により様々な形をしており、これが機種固有の音色の違いとなっている。
・VCOの出力波形とその使い道:
サイン波(Sine):
・サイン波の波形(センターの横ラインは無視して下さい)は以下の通り。
サイン波の音を聞く
・もっとも柔らかい音色で、口笛の音色に向いている。
・(理論的には)倍音を含まないので、フィルターで音色変更できない。
・LFO から VCO にサイン波を送ればビブラートがかけられる。
三角波(Triangle):
・三角波の波形は以下の通り。
三角波の音を聞く
・サイン波より少し多く倍音を含み、ちょっと硬い音がする。 ・機種によっては三角波の無いものも多い。
・LFO としてビブラート用に使用すると、サイン波よりも音程の変化が強力になり、フュージョンやロックに向いた個性の強いビブラートがかけられる。浅いビブラートの場合にはサイン波との違いはさほど無い。
鋸歯状波(Sawtooth):
・鋸歯状波の波形は以下の通り。
・波の形の上下が逆の鋸歯状波もある。
鋸歯状波の音を聞く
・豊富な倍音を含み、VCF での音色加工にも適する。
・弦楽器や管楽器の音をシミュレートする時の元波形として使われる。
・LFO として使用した場合、波の形が上向きか、下向きかによって効果が変わる。
矩形波(方形波、Square、Rectangular):
・矩形波の波形は以下の通り。
矩形波の音を聞く
・クラリネットやアコースティックベースの音を作る時の音源として使われる。
(アコースティックベースは本来なら弦楽器なので鋸歯状波のはずだが、なぜか矩形波を使うと良い音ができる)
・LFO として使用した場合、VCO に信号を送ると、音程の離れたピッチを繰り返すトリルとして使用できる。
パルス波(非対称矩形波、Pulse):
・パルス波の波形は以下の通り(色々な種類がある)。
パルス波の音を聞く。パルスの幅を50%→90%へ変えていく。次にこれを LFO で動かす。
・非対称矩形波という名前もあるように、矩形波の親戚。矩形波が上下の波の比率が50%なのに対して、上下の比率が違う物をパルス波と呼んでいる
・オーボエやファゴットのように鼻をつまんだようなサウンドに適する。またクラビネットのサウンド作りにも向いている。
・LFO として VCO に送ると、宇宙船のコックピットの効果音のような発信音を作れる 。