Analog Synthesizer Lecture

太い音に関する考察:

 「太い」は音の太さである(ここではアナログシンセの音ね)。さて、音の太いシンセというとプロには通りの良い言葉なんだけど、一般の人に通じる言葉かどうかちょっと判断に困る。ここで言う「太い音」とはズッシリと芯があり、沢山の楽器群の中で鳴っていても、その楽器の音がハッキリと聞こえる音、とでも定義できるだろうか。「音の抜けが良い」なんていう言い方も似たような意味だと考えられる。


 で、音の太いシンセの代表例としてあげられるのは、やはり「Minimoog」だろう。この意見に異論を挟む人はほとんどいないと思う。不思議な事に Minimoog の音色は、色々な音がグッチャグチャに重なったサウンドの中でも良く聞こえるのだ。同じような音色を別なシンセで作って聞いてみると、ミキサーがソロモードの時は聞こえていたはずの音がバンドの中に入ると全然目立たなくなってしまうという事が多い。また、スタジオでメーターの振れ方を見ても、Minimoog はメーターがさほど大きく振れていないのに大きな音に聞こえるのだ。逆の言い方をすれば他社の物を使った場合、シンセの音が聞こえにくいのでボリュームを上げたりすると、メーターばかりが振り切れてしまい聴感上は音が聞こえないという不思議な現象に出くわす。


 この Minimoog の音の太さの原因には色々な説があるのだが、俗説で最も有力なのはフィルターが違うという説である。Moog のフィルターは当時特許であったトランジスタラダーという方式の回路を使用しており、かつ切れ味が 24 db/oct という強力な物であった。多くの人は単純に「トランジスタラダー」、「24 db/oct」というなかば新興宗教の呪文のような言葉に大きくひかれていた。だが実際にそれだけが全てか?という事で実験をしてみると以外にそうでもないのである。

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 確かにフィルター特性は楽器の音色を決めるポイントではあるのだが、音の太さと抜けの全てに関わっているわけではない。例えば Moog のモジュラーシンセ(Minimoog の物とほぼ同等)のフィルターだけを使い、あとは他社のアナログシンセで音を作って聞いてみると、思ったより音が太くならないのだ。そこで、オシレターも Moog の物に取り替えてみる...すると音は俄然太くなり重みが出て来る。ところが太くなったはずの音も「音の抜け」という観点からすると完璧ではないのだ。残る理由はただひとつ、音の出力部分にある VCA の特性という事になる。そこで、今度は作った音を Moog の VCA に通す。すると音が更に良くなるのだ。VCA はアナログシンセでは音量の大小をコントロールするだけなので見落とされがちだが、こいつの音の抜けというのは実は重要なポイントなのである。


 な〜んだ、じゃあ全部 Moog じゃなきゃダメじゃん!という声も聞こえてきそうだが、音色のキャラクターを決めるのは VCO, VCF なのだが、音の抜けを決めるのは VCA がかなり関与していると言える。したがって、オシレター部分だけローランドや Doepfer 等を使い、VCF と VCA は Moog を使うというのでもかなり良い音が作れるのである。更に言えば、ローランドの VCO, VCF を使って VCA だけ Moog の物にしても音色キャラクターはちょっと変わるが抜けは中々良いのである。この辺は太さ、抜け共に個人の好みの問題になってくる。


 と言う事で、俗説は必ずしも信頼出来る話ではない。で、まあ究極のぶっといズッコンズッコンな音が欲しい人はやっぱり Moog 系でシステムを固めるに限る!「そんな事言ったって Moog のシンセなんて今さら手に入らないじゃないですか」という声が聞こえてきそうだが、簡単には手に入らないが全然手に入らないわけではないのだ。eBay 等のオークションや、海外で個人的にビンテージシンセを扱っている人は何人か見受けられる。こういう所に渡りをつけられると結構色々手にいれやすい。もっとも英語が必要になるわけだけどね...


<追記>

 2010年代に入り、欧米のガレージメーカーがかなり良い感じの Moog クローンモジュラーシンセを作り始めている。以前から Moog の 921 タイプの VCO を生産するメーカーはあったが、ここに来て 901 を作り始めた所が出て来た。しかも、音色は 901 だけど安定度が高いのがウリなので、これはちょっと興味を持たざるを得ないだろう。



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