Analog Synthesizer Lecture

最初のソフトシンセ:

注:この原稿は2003年8月に無料誌のデジレコに掲載した物に加筆訂正を行っています。

注2:この題材は「Analog」の分類には入らないんですが、音作りという事でここに入れました。


 今やシンセサイザーというとハードを買うよりソフトシンセを買う方が話題の中心になってしまった感がある。このソフトシンセ、一体何時頃から世に出だしたのか?まあこの問題は「何をもってソフトシンセと呼ぶのか?」という根本問題にも関係するけど、恐らくコンシューマー向けでコンピューター上で音を簡単に合成できるツールとしては1984年に「ペンギンソフトウェア(後のポーラーウェア)」というメーカーから発売された Cat Graphics というのが最初ではないか?と思われる。そう、今から30年以上も前の話。ハードはアップルII(Apple II)用。今の若人はアップルIIなどと言う古臭いマシンは御存じないかもしれないが、Mac が世に出る前に存在したアップル社の代表機種である。ハードは8ビットコンピューターでクロック1メガ、メモリーは16キロバイト(拡張するとなんと48キロバイト!)、ハイレゾグラフィックスには4色(後期は6色)も色が表示できたという優れものである。

 

AppCat

Apple II の広告

 

MHD

世界中の情報が入るのでは?と思うほど大容量だった 20Mbyte HD の広告

 で、このアップルIIだが非常に拡張性に優れ色々なサウンドボードや音声発生ボードが発売されていた。しかし上記の Cat Graphics は追加ハード無しでサウンドが合成できたのである。ただし、鍵盤が無いので作った音で演奏というわけにはいかなかった。ソフトの名の示す通り、グラフィックスソフトとして機能し、作成したゲームグラフィックスにサウンドを付けられるというのがメインの機能だったのだ。しかし、この機能が中々良く考えられており、音は今さらながらに使うと面白いのではないか?と思われる。

CGal

 

 ●Cat Graphics はこちらを参照


 サウンド合成は単純で、ソフト内に2つの仮想オシレターがあり、そのピッチをパラメーターによって変化させられる。パラメーターは基本ピッチ、スィープの幅、スィープさせる回数、という3つが各オシレターにあるだけである。ここでスィープとはピッチが上昇して行くか?下降して行くかを表す。今のソフトシンセで考えれば2つのオシレターとそれにつながったエンベロープジェネレーター、という感じなのだが、今のものと違うのはマシンの性能に限界があったため、必ずしも思った通りの音にならない点にある。


 これが面白いのだ!!!なにせクロックが1メガしかない所で仮想オシレターが2つも鳴るのである。おかげでピッチが上昇して行くと、ある所で限界に達してしまい、上がって行ったはずの音程が何故か下の方から再び聞こえてくる、という無限音階のような様相を呈してくるのだ。結果として出て来る音は現在のソフト/ハードシンセでは再現するのが極めて難しい偶発的な物になる。


 ただし画面は今のようなスライダーがあるわけでもなく、アルファニューメリックキーボードに割り当てられたパラメーターをシコシコといじりながら決めて行く方式になっており、多少の慣れが必要だった。


 個人的には中々良い味が出てると思う。また20年前でありながら現在のソフトの基本を築き上げた Music Construction Set なんてのもあり、1メガヘルツのチップでもここまで出来るのか?!と驚かれる人もいるのではないかと思う。

 

MCSal



 で、実際に自分でもこのソフトを使ってみたい!という人も御安心を!アップルIIは現在 PC でも Mac でもエミュレーターソフトが公開されており、Cat Graphics も開発元がフリーウェアとしているので、インターネット環境があれば簡単に手に入れる事ができる。もちろん多少の音の違いはあるが、ほぼ当時の音が再現できる。また本物でなきゃ嫌だ!という人はアメリカの eBay あたりのオークションで実機のアップルIIを手に入れるといいだろう。結構安い値段で手に入るはずだ。レトロ系のシンセはほぼネタが出尽くした感もあるが、まだまだ探せば眠ってるネタがあるってこってす!!!



 ←前へ