Analog Synthesizer Lecture

Asperges Me の音作り

   a:概要   b:詳細

a:概要

 Asperges Me(アスペルジェス・メ)は私の 1'st ソロアルバム「Kyrie : Canto Cybernetico」の1曲目に収録されています。このアルバムは以下のリンクから購入できます。

 

   

 

 通常、ミサ曲というと Kyrie Eleison(キリエ・エレイソン、アルバムでは3曲目)から始まる事が多いようです。しかし、今回のアルバムでは最初にキリエ・エレイソンをデモテープとして作成しており、その曲調から「これを1曲目に持って来るのはちょっと唐突かな?」と考え、序奏の意味も込めて、この Asperges Me(「アスペルジェス・メ」と発音、邦題は「私に注ぎたまえ」)と2曲目の Vidi Aquam(「ヴィディ・アクアム」と発音、邦題は「私は水を見た」)を持って来ました。


 一般的なクラシック(やポップス/ロック/ジャズ)のミサ曲でもキリエ・エレイソンに入る前に導入部の曲が入る場合があります。


 ちなみに各曲のタイトルや歌詞は全てラテン語(キリエ・エレイソンの一部を除く)ですが、ラテン語の発音は日本で言う所のローマ字発音に近いものが多くなっていますので、そのつもりで歌を聞きながら歌詞を読んで見ると、英語の語源になっていそうな言葉も登場したりして中々興味深いものがあると思います。


 さて、1曲目に持って来た「私に注ぎたまえ」ですが、色々と考えた結果、このアルバムで中心になっているアナログシンセサイザーのサウンドを象徴したような音作りをしようという事にしました。


 イントロには平行5度の音程がダウンするシンセ独特の音から始まり、基本リズムはアナログシンセでよく使われるサンプル&ホールドという機能を利用したベースラインとホワイトノイズを利用したパーカッションを中心に作っています。


 さらにイントロのメロディーは元祖サンプラーのメロトロンを使用しています。最近はこのメロトロンもサンプリング音源で供給されているケースが多いのですが、ここでは本物を利用しています。メロトロンは鍵盤を押すと中に仕込まれたテープが回り出し、あらかじめテープに録音された音が鳴るという楽器です。これについて詳しく知りたい方はミュージアムのページにあるメロトロンのページを参照して下さい。このメロトロンはモーター駆動でテープを回している関係上、レコーディングに使う時には最低でも2時間前に電源を入れてモーターの回転を安定させてからレコーディングに入らなければなりませんでした。


 メロディーは何となくグレゴリオ聖歌を思わせるような節回しを使っています。専門的にはCのドリアン(C Dorian)というモードでメロディを作っています。これはジャズ等ではよく使われる音階なのですが、実は教会音楽に端を発した旋法の1種なのです。


 他の曲も含めてなのですが、ミサ曲は元々が教会のお祈りで使う言葉にメロディが乗ったものが多く、したがって通常のポップスの歌詞のように文字数が箇所箇所で同じ、というようにはできていません。1番の歌詞が少ないのに、2番は出だしが同じなのに途中から極端に文字数が多くなるといったようなケースが多く、したがってこれにメロディーを付けるのは至難の技だったりするわけです。


 最近ヒ-リングミュージックとして注目を集めたグレゴリオ聖歌等も、良く聞くとはっきりした拍子というのは感じられず、言葉に合わせてメロディーが自由に上下するというケースがほとんどだと思います。


 上記のようなドリアンや同じ教会旋法のリディアンやミクソリディアンと呼ばれる音階は、こういった文字数が合わない時に浮遊感を出しながらその不自然さをカバーするメロディーを作るのに非常に適しているように感じます。レコーディングでは基本的なメロディーを作っておき、それに合わせてボーカルの芳賀さんと相談しながら歌詞をうまくメロディーにはめこんで行きました。



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