Music Column

3. 100万円がいきなりタダ騒動!:

 ま、これはプロじゃなくてもある事だとは思うんだけど、私は何度も10万円以上〜150万円くらいまでの商品がタダになってしまった事がある。それもビックカメラ100人に一人タダ!キャンペーンとかじゃあない。


 私のケースではこれが結構あったりするのだ。まず思い出すのが Apple の Mac-II。もう既に記憶の彼方に忘れ去られたビンテージ機種だけど、それまでモノクロ9インチだった Mac がカラーで13インチに対応した最初の機種だ。値段的には150万くらいしたはずだ。


 んで、私はこれを買おうと思ったわけ。ところが私の友人も業務用に使えるかどうか?試してみて、使えそうなら買う、という話になっていた。もし彼が買わなければ私が買っても良いし、彼が買って使い勝手を横から見てて、良さそうならやっぱ私も買おうかな?という感じになった。


 要するに結構いい加減な体制で試しに使いつつ...という事になった。こういうケースは一般的なショップだと「テストケースで貸し出してもらって気に入ったら1〜2台売れますよ」なんてのはまず通用しない。だけどプロ向けのショップとか、アマチュア向けでも小規模なお店で、かつお店の人と仲良くなっていると可能性があるケースなのだ。


 でまあ、とにかくそういう感じで150万円なりの Mac-II がうちのスタジオに来た。1週間ほどいじった後、友人の会社でも1週間ほど使ってもらった結果、当時の Mac-II のソフトでは会社の経理処理には無理がある、という結論になり再び私の所に機材が戻って来た。


 そこで「んじゃあ、結局僕が買うから請求書回してくださ〜い」と購入予定の会社に電話した。ところが1ヶ月くらいたっても請求書が来ない。そこでもう一度電話してみたら「今、ちょっとゴタゴタしてるんで、ちゃんとしたら書類回しますから」という事になり3ヶ月くらいたった。それでも書類は来ず、再び電話したがまたまた要領を得ない返答だった。結局半年以上たって、私も請求書の件を忘れかけた頃に一応電話したけど再びよく分からない回答。で、更に半年くらい経って(計1年)電話してみた。すでにこの時点で次の機種が出るという話が流れ、Mac-II を発表当初の価格で買う、というのは「どうもな〜」という事になってしまっていた。


 で、結局「イヤ、私お金あるし、払いたいんだけど...」と電話して詰め寄った所、知り合いのスタッフが重い口を開いた。理由は「社内で横領事件が発生し、犯人が種類をメチャメチャに改ざん/破棄してしまった。改ざん/破棄してしまった書類の中に安西さんへの請求書があったらしいが、帳簿上、安西さんに請求するべき金額の記録がない。したがって安西さんからはお金を貰えないので、Mac-II は貰ってやって下さい」という事だった。


 というわけで150万円タダになっちゃったのだった!!!



 実は他にもこういうケースがある。例えば効果音の CD セットで10万円くらいするやつ。この時は使える音があるかどうかわからない(効果音の CD は内容が異常に多いので使いたいネタが入っているかどうか?探すのが大変)ので「使ってみて、使える音があったら買って下さい」という話になった。まあ、結構いい加減な話だし、私がインチキして、ネタを使ったのに使わなかった、と言ってしまったらお金を払わずに済む。だけど私はそういうのが嫌いだし、プロの世界でそんな事をして、バレでもしたら将来的にかなりキビシイ。なので使えた場合にはちゃんとお金を払うつもりでいた。こういうのは長い間の業者との信頼関係に依存してるわけなのではあるが...


 で、色々調べた結果、使える音があったので買う事にして、担当者に電話した。ところがなんと担当者は会社を辞めていたのだ。彼が会社を辞める時点で、私への貸し出し伝票を作らないまま退社してしまったらしく、その会社から私への請求はないという。したがって、私がお金を払う、と力説してもこれまた「いらない」と断られてしまったわけである。



 更に更に、つい最近もこのパターンがあった。このケースも時期が非常に微妙だった。まだ日が浅いので細かい機種名やソフト名は伏せておこう。


 話は数年前になるのだが、私のスタジオの録音機材を入れ替えようと思い、ディーラーに相談した。その機材はまだ日本では音楽製作に使われている歴史が浅く、また私が要望するシステムはマシンルームとインターフェイスは床下配線を利用して隔離する等と言った要望があったため、ディーラー側でもそういった納品経験がなく、とにかく私の求めるセットを組んでみて使えるセットに組みあがった段階で請求書を送ってもらう、というこれまた上記のケースを読めば「またそう来たか!」と思うようなパターンである。ディーラー側も私のスタジオでの経験を生かして他の音楽家へのシステム提案を行うつもりでいた。


 納品してもらった機材は録音系ソフト、音色系ソフトだけでも100万以上、それらがインストールされたPowerMacG5とWindows(3.2Gのペンティアム4で当時としては最高スペック)、更にインターフェイスが1台という構成だった。恐らく販売価格は全体で300万以上ではないか?という感じだ。


 ところが、スタジオに配置して使ってみるとインターフェイスにランダムにノイズが乗ったり、Midiデータの送受信がうまく行かないという問題が起こった。まず最初に疑われたのがインターフェイスで、とにかく別機種をと言ってショールームで正常に動作している機械を1台持ってきてもらった。ところがこれも異常動作をする。そこで疑われたのがWindowsマシンとインターフェイスとの相性。なのでディーラーはもう1台、同仕様だが別なマザーボードを使ったWindowsマシンを持ってきてくれた。しかしそれでもトラブルが続発しまともに走らない。


 私もディーラーも困り果て、わざわざ大阪から専門の技術者を呼んで接続状態をチェックしてもらったが、これまた問題は発生していないという結論。しまいにゃインターフェイスケーブルが電磁波の影響を受けてるんじゃないか?とディーラーと共に簡易電磁波測定器を持って家の周辺をウロウロしたが、やはり原因が分からない。


 ディーラーも私も頭を悩ませる事、半年、ディーラー側からは「こちらでも本社(海外)と連絡を取り合って解決策を見つけますからしばらくそのまま機材を使っていて下さい」という事になった。


 という事で更に数ヶ月がなんとなく過ぎてしまったが、さすがにマズイと思い、ディーラに電話したんだが、なんと担当者は退社していた。そこで担当者の移籍先に連絡を取った所、どうも要領を得ない返事が返って来て、邪魔にならないなら今のまま機材を使って欲しいという事になった。こちらとしては全然OK!なのでそのまま機材を使うこと半年。ただし使うと言ってもインターフェイスにノイズが乗るので限定的な使い方しか出来なかったわけだが…



 結局、数ヵ月後にそのディーラー自体が他の会社に吸収合併されてしまい、さらに元の開発会社も他社の傘下に入ってしまった。どうやら真相はゴタゴタの他に株の関係があるので、情報を公開できなかった、という事にあったらしい。で、私への貸し出し伝票は全部なくなってしまった。例によってお金はいりません、という回答。


 というようなわけで、またまた数百万の機材がタダになってしまったのである。自分で勝手に使えると分かったので、コンピューターやインターフェイスを散々調べ上げた結果、なんと原因はショールームから持って来ていた2台のインターフェイスが同じ故障をしており、しかもそれをつなぐバッファユニットにも問題があったという2重のトラブルの結果だったらしい。


ただショールームではコンピューターとインターフェイス間が2〜3メートルしか離れていなかったため問題が発生しなかったという事だったようだ。しかし私のスタジオではこれを床下配線で10メートル近く引き伸ばしていたために問題が発生したのだ。引き伸ばしのためにはメーカーが正規に発売している延長用バッファユニットを使っていた。しかし、バッファユニットは発売されたばかりだったので、メーカー側も問題を把握できなかったのが原因のようだ。



 というのが数年前の機材タダ事件の真相だった。タダで機材が貰えちゃってラッキー!とも思えるが、タダ機材はメーカー保証が付くとも思えないんで、故障しちゃったら終わっちゃうかもしんないけどね。


 それに音楽業界はお金の持ち逃げが多いので、タダになった機材の倍額以上(中堅会社の部長クラスの年収分くらいか?)のギャラを持ち逃げされてるんで、プラスマイナスで考えると「まあそんなもんすかあ?」という力ない笑いを浮かべざるをえないわけだ。



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