Music Column

5. 悲しみの TB-303:

 最近、大衆の消費動向から商品が企画されるようになったため、世人に媚びたつまらん商品は沢山出るようになったが、独断と偏見に走ったモンド商品が少なくなってしまったように思う。マーケッティングという言葉が言われるようになって久しいが、そういう言葉が出る以前に、何か勢いだけで作られてしまい、ほとんど世の中に相手にされずに消えて行った商品の方がヒネクレ者の私は愛着を感じてしまう。


 シンセ物のモンド商品も少なくないわけだが、ローランドのTB−303は販売当時は売れない商品として静かにその姿を消して行った。ところが90年代に入った頃か、突如これを使ったサウンドに火が付いたのは皆さん御存じであろう。発端がなんだったんだか、ダンス物に弱い私にはよくわからんのだが、LFOあたりがやってたモニョモニョした音に触発された人は多かったのではなかろうか?


   


LFO のアルバム:


 というわけで、商品が姿を消して10年以上経ってからの大ヒット。ところが当のローランドは商品を廃判にしてしまっているので現物が手に入らない。すると商売の原理で値段が高騰する。手に入りにくいと思うと不思議な消費者心理が働いて更にこの商品が欲しくなってしまう。はた目で見ていた私には、その昔、石油危機ってのがあった時に「石油関連商品のトイレットぺーパーがなくなる!」という巷の噂でオバハン達がスーパーに大行列を作り、大パニック状態を起こした事を思い出してしまう。同じ様に欲しい人が多いのに物が買えなくて値段が上がった例としては痩せる海藻石鹸あたりが記憶に新しいか?


 いずれにしてもTB−303なる商品は発売当時、音も悪いしムチャクチャ使いにくい!という事で大不評だった商品である。私はこれが現役で売られていた時期に池袋の西武デパートに併設されていたコミニティカレッジというカルチャースクールでシンセサイザー(当然当時はアナログシンセでMidiもなし!)を教えていたのだが、上級コースではこのTB−303、DR−55、MC−202というテクノ野郎が涙を流して喜びそうな機材でYMOの多重録音なんかをやっていたのである。


 まだ、

 1.コンピューターと音楽という物が概念的に今ほど結びついていない時代に、

 2.カルチャースクールに勉強に来た女の子(生徒の99%が若い女性だった)相手に、

 3.TB−303、である。


 あの使いにくさをローランドの開発者も認める筋金入りのTB−303をちょいとカルチャーしに来た10代後半の女の子が使いこなせるわけもない。最初の数小節でわけがわからなくなり、それを修正しようとしてもノイローゼになりそうになり、生徒も先生もわけがわかんなくなって「今日は早めにやめて喫茶店でお茶するひと〜!」とか言うと女の子全員「ハ〜〜イ!」となってしまい、ほとんどまともに打ち込みをした生徒はいなかった。


 で、一般でもTB−303は「使わないからやる」と言われても「そんなショ〜モない楽器5000円貰ったっていらん!」という状況だったのである。そういうわけでローランドには大量の売れ残りTB−303(& System-100M の鍵盤)が倉庫に山積みになったそうである。


 こうしてTB−303は廃品種となり、大量の不良在庫を抱えた社員達は泣く泣くそれらを夢の島まで捨てに行ったそうである。その当事者には現ローランドの会長さんもいたという(そもそも夢の島に行った話は会長から聞いたのだった)。


 というわけで、夢の島の1980年代中頃の地層を掘り出すと大量のTB−303が発掘される可能性がある。もしこれらが動く状態で発見されたらTB−303の市場価格が大きく崩れる事であろう。


 こうしたモンド商品は、うまく目を付けて底値の時にまとめ買いしておくと、後になって収益を生む可能性がある。株の売買と同じだ。次にバブルになるモンド商品はなんだろうか?楽器じゃないけど、Lカセットなんてどうだろう?知らない人も多いと思うけど、Lカセットはビデオテープくらいの大きさの巨大カセットテープでテープ幅が広く、スピードも速く回るのでオープンデッキ並みに音が良いらしい。70年代終わり頃に出て全く話題にならなかった商品なんだけど、噂では未だにデッドストック品が秋葉原の裏町にあるらしい。これをまとめ買いし、マスターに使ったダンス曲のヒットでも出して、某サ○レ○あたりで「この曲の音の太さの秘密はLカセットで...」の一言でも言えば大儲けできるかもよ?!



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