Music Column

2. 勉強しないと書けない音楽:

 「音楽は魂だ!心だ!だから音楽の勉強なんてしなくたってOKさ、ベイベ〜〜!」。これは一面では真実である。ただしこれを言って良いのは天才に限られる。天才じゃない人がこんな事言ってカスみたいな曲を書けば「あいつも濃ゆいからねえ」なんて影口を叩かれるのがオチだ。だからと言ってコード進行だの代理和音だの編曲法だのを学んだ所で心にしみ入る曲が書けるわけでもないところが難しい。


 で、音楽を作る上でテクニカルな学習が必要になる時のひとつに「xxっぽい曲を書く」というケースがある。例えば過去の名曲風の曲を作ろうと思った場合、その曲の特長となるコードの性格等を把握できるかどうか?で似た雰囲気を作れるか、似て非なるカッコ悪い物を作ってしまうか?の分かれ道になる。これは特にオシャレ系な曲に言えると思う。例えば Earth Wind & Fire のバラードみたいな曲にしたければ、代理和音の使用とそこから派生する転調の方法を知っていないとあのサウンドにはならない。



 上記のようなコードサウンドは主としてジズのコード理論で成り立っている。ジャズ理論書を読むと概略は理解できると思う。有名なジャズ理論書として渡辺貞夫の本がある。もっともこれだけ読んでいても全貌は理解しにくいと思うので、同系統の本を2〜3冊買って、とっかえひっかえ読むのをおすすめする。ただし、最近の流行に乗って出たような本は、著者がちゃんと理論を理解してるとは言いがたい物もあるので、そういうのに当たっちゃったら御愁傷様としか言いようがない。




 

 また、ちょっと+αでクラシックの雰囲気を入れたい、なんて時にも学習していたかどうか?は重要なポイントとなる。例えばバッハのフーガのように、2つ以上のメロディーが絡み合う編曲は対位法を知らないで書くとかなり厳しい。なぜならバッハ以前の時代の音楽は主題のメロディーがどのように発展して行くか?が結構理論的に構築されているからだ。


 音楽史にうとい私があんまり言うのもなんだが、対位法の発祥は古くグレゴリオ聖歌あたりから始まる。グレゴリオ聖歌はヒーリング系で流行ったので聞いた人も多いと思うけど単旋律だ。だけど教会で歌ってると眠くなっちゃうよ!ってなわけで、この単旋律を輪唱のようにし始めた。ちょうど「かえるの歌」を輪唱するようなもんだ。そしてそれが次第に複雑になって行き、繰り返すパートを4度下に持っていったり、さらに声部を増やしたりと複雑化して行き、バッハのようなサウンドになって行ったわけだ。恐らく時期的にはルネッサンス頃で、理論体形としてはフックスという人が書いた対位法あたりが原点になっていると思われる。...が、これが面白いかどうか?は...う〜ん、みなさんの判断にお任せします。私は下の本は面白かったけどね。



 で、まあ対位法だけど、こいつは勉強すればわかるが「理論通り書いたら力一杯つまらない曲が書ける」という内容のものだ。一通り教科書を読んだら細かい規定は忘れるのが一番だ。とは言え知らないと対位法にならんのも事実。この失敗例として Moog Cookbook のセカンドアルバムがあげられる。このアルバムではジョークで色々なシンセサウンド風フレーズが出てくるんだけど、その中に Swiched on Bach 風の所がある。だが彼等は対位法を知らなかったのだろう、曲の展開が全然バッハ風になっておらず、かなり悲惨な事になっている。誰かその手のサウンドに詳しい人に相談すれば良かったのだろうが、惜しい所だ。



 あと、もう一つクラシック風に聞こえるかどうか?に和声学にのっとった手法でコード楽器のアレンジがされているか?がある。クラシック風の和声は教会の賛美歌なんかが良い例で、これらは4つの声部で書かれている。この手の手法は和声学の本を研究するのが良いと思う。最初は低音の動きに合わせて残りを書くバス課題、次に高音の動きに合わせて書くソプラノ課題なんてのがある。のだめカンタービレ3巻で、のだめが苦しんでる試験問題がこれである。


 研究してみたい人は以下のような本がある。対位法と共に、不眠症の人は読むと一発で寝られるだろう。私のケースで言えば、これらを使って実際に先生について勉強し、ある時「あ、分かった!これで習った事の逆をやるとカッコ良い曲になるんだ!」と気づいた。それに気づければプロの音楽家になれる。そうでなければプロの先生になれます。


   


 で、まあ最初にも書いたけど、あなたが天才ならこんなもん勉強しなくてもOKだ!だけど、知識を広げたいのであれば、その手の本を読んでみるのもまたひとつの選択肢だろう。



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