Music Column

1. 最初の音楽配信:

すでに満100歳を超える音楽配信ビジネス:

 

 インターネットによる音楽配信ビジネス、最新鋭だと思います?実は違うのだ。このビジネス自体、グラハム・ベルが電話を作った19世紀後半(実際のシステムが完成したのは1908年)にはすでに登場していたのだ。これまたインターネットの紀元と同じく古すぎて詳細な資料までは残っていない。


 当時の音楽配信システムは電話線を使って工場で作った音楽を送信し、レストランやホテルのBGMとして使用してもらおうと言うものだった。ここで工場と書いたのは、それほど大型のシステムを使わなければ音が作れなかったためである。音楽製造工場から送られる信号は何キロも離れた受信先にあるスピーカーを直接ドライブしていたと言われている。つまり数キロ離れた場所にある複数のスピーカーを鳴らすほどのパワーを送らなければならかなったため、工場のように大きなシステムが必要だったというわけである。


 この時作られた音楽が果たして普通のポップスやクラシックのような音楽だったのか、電子音楽的なものだったのか、はたまた全く前衛的なものだったのか?は録音物が現存していないため今となっては永遠の謎である。


 しかし、音を発生させるシステムは図面や写真が残っているため分かっている。この音楽配信システムでは倍音加算による音声合成を行っていたのだ。倍音は音楽家の皆さんなら御存じとは思うが、音を構成する基本要素である。どんな音も単純なサイン波(口笛のような丸い音色)が一定の法則(音程)順に並んで作る事ができる(雑音を除く)。当時のシステムでは直径が50センチも1メートルもあるような巨大な土管のようなローターをモーターで回し、このローターに刻み付けられた模様を拾い出して、それを音声の信号に変換していたらしい。模様の数が多ければ高いピッチ、つまり高次の倍音を発生させられる。例えば1番目のローターに刻まれた模様の倍の数の模様が2番目のローターに刻まれていて、両方を同じ速度で回せば2番目のローターからはオクターブ上の音が出る、という寸法である。

 

 ●グロサリーの倍音の項目を参照する

 

 このシステムには2段の鍵盤があり、2人の奏者が演奏して音楽を作っていたという噂もあるが、本当かどうか?はわからない。


 いずれにしてもビジネス自体は失敗に終わり、1世紀以上に渡り、電子音楽マニアのみぞ知る存在となった元祖音楽配信ビジネスだが、ひとつ後世に残る重要な役割を果たしている。それは、このローターを回して倍音を取り出す、という方式がハモンドオルガンに引き継がれたのである。音楽制作者なら誰でも知っているであろうハモンドオルガンだ。現在の電子発振式に至る以前のハモンド(B-3 や L-100、主に1960年代後半までの製品)は内部に小型の細長いローターが入っており、これを回転させる事によりあの独特なサウンドを得ていたのである。


 このシステムがハモンドに引き継がれた話題は以下の本に登場する。

 


 レトロ・カタログ大全のハモンドのパンフレットを見る



 というわけで、色々な場所を線でつないだら、そこに音を送ってビジネスにならんか?というのは誰でも考える事だったわけである。



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