Music Column

4. クロスウィンドの頃 4/チキンジョージ楽器忘れ事件:

注:この文章は1998年頃に自前ホームページのエッセイコーナー用に書かれたものを加筆訂正しています。
 


   

 

 バンドもツアーを長いこと続けてると演奏にも飽きてきて、それぞれの趣味に走った世界に行ってしまうものだ。例えば人によってはツアー先の町にあるオモチャ屋さんを回ってデッドストックでお店の奥に積まれていたビンテージ物オモチャや模型を発掘するのに命をかけてるとか(含む私)、各地区ごとに彼女を作っておいてステージが終わるとすぐ女の子といなくなっちゃう奴とか(含まない私、ただしこのパターンは半年ぶりに行ってみたら彼女が結婚しちゃったりしてて、いきなりドロドロに暗い世界に行っちゃう奴がいるので要注意)、そしてクロスウィンドの場合、バンドメンバー&スタッフ(含まない私)が神戸でゴルフの打ちっぱなしにハマった時期がある。神戸の打ちっぱなしゴルフ場は六甲山の方にあるらしく、早朝に行くと空いてる上にかなり爽快なんだそうだ。


 というわけで、クロスウィンドゴルフ好き部隊の生活は、昼過ぎに起きる。朝ご飯を食べたらパチンコに行く、夕方4時頃にライブハウスに楽器搬入、6時くらいまでリハ、本番の7時半までパチンコ、10時頃ライブ終了。11時頃に楽器片付け終了、その地区のヤクザっぽいオジサンにお酒をおごってもらい午前2時過ぎまで飲む。午前3時頃宿舎(ただで泊めてもらってるラブホテル)に戻り、シャワーを浴びて仮眠。午前5時頃起きて朝イチのゴルフへ。午前8時頃戻ってきて寝る、昼すぎに起きる、という医者に話したら激怒されそうな生活の繰り返しだった。


 私とドラムのそうる透氏はそういう生活について行けないので夜中の酒飲み大会(もっとも私も透君も飲まないのでウーロン茶のみ、ただし最近は透君も飲むそうです)だけ参加して昼間は近場をブラブラしてレコード買ったり本屋に行ったりしていた。


 そんな状況なのでバンド内の話題といったらパチンコかゴルフしかなかった。リハの最中でさえもスィングがどうのだの「俺ゴルフクラブ買っちゃおっかなー?」(小林君の口調)とかそういう話ばっかりで音楽の話は無し。


 そんな中、神戸のライブハウスのチキンジョージの楽屋で例によってゴルフの話題で盛り上がっていた。チキンジョージは阪神大震災で倒壊しちゃったらしいので、現在はどうなっているか知らないんけど、当時はライブハウスと隣のキャバレーとが同じ建物に入っていて楽屋や通路も共通という設計だった。楽屋からステージに行くには一度外に出てキャバレーの2階の照明用スペースの横を抜け、ステージ裏のドアからステージに入る、という複雑な経路を通って行き、だいたい楽屋からステージまで2〜3分かかるというちょっと迷路っぽくてワクワク感のあるコースだった。


 その晩のステージでは1曲目の前に風の効果音が入り、数分してから演奏が始まる、という段取りで、効果音のテープは10分くらいの長さ作ってPAに渡してあった。テープは最初の数分が風の音のみで、後半5分ほどはそれにシンセのアルペジオが追加される内容。


 楽屋で待っているとスタッフが「効果音始まりましたー」と連絡してきたので1分ほどして楽屋を出てステージに移動したんだけど、その間も小林君はゴルフのフォームの話ばかり...さて効果音が始まって5分ほどしてメンバー全員がステージに立ち、チューニングでもして演奏すっか、という時点になり、いきなり小林君が「あ、ベース忘れてきた!」と言ったので大騒ぎ!すでに効果音も5分以上流れていて、後半のシンセアルペジオのパターンが始まっている。あと5分以内に楽屋に戻ってベースを持ってきて演奏を始めないと、効果音が終わってしまう!というわけでスタッフが大急ぎで楽屋にベースを取りに行ったんだけど、ステージ上ではメンバーが腹かかえて笑っててチューニングをするどころの状態じゃない!


 仕方がないので最悪の場合を考えて私のシンセで風の効果音とアルペジオが演奏できるようにセッティングをしておき、効果音が切れちゃったら生効果音に切り替えということで準備をしておいた。というわけだったんだけど、幸いスタッフの必死の激走が物を言ってギリギリでステージにベースが届けられなんとか演奏を始めることができたのでした。


 音楽演奏もダレて来ると色々あるという話だが、私も某テレビ番組のファンクラブの集いに主演の桂木文見たさにピアノで参加した時、ステージ上で繰り広げられるファンとタレントのゲーム大会に飽きちゃって、客席から手元の見えないピアノの影に漫画置いて読んでて、次にやる曲が分かんなくなったとか経験ありなんですよね。



 ←前へ   次へ→ 

Copyright © 2018 - end of the world / Fumitaka Anzai